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「蓮也。最後に想い出が欲しいの。──シャワー、浴びて来て」
勝手に口から溢れた言葉は、最初からそのためだったのかな。
「別れを承諾した」私に満足そうな様子で、三点ユニットのバスルームに向かった彼を一瞬の間をおいて追った。
シャワーカーテンを一気に開けた私と握ったペティナイフに、声も出ずに後退ろうとして壁に背中を当てた蓮也の胸を突き刺した。
その後のことははっきりとは覚えてない。
だけど、親に持たされた工具箱に入ってた鉈が一番役に立ったわ。手斧は流石になかったけど。
田舎では必需品の鉈も、都会のマンションで枝打ちなんてすることもないのにね。
せめて嘘でも申し訳なさそうにしてくれてたら、黙って耐えられたのかもしれない。
単に「初めての恋人」にあんなに雑に捨てられるのが我慢ならなかっただけなのかも。
……自分のことなのに、よくわからないわ。
あれからずっと、花と食べ物を買いに行く以外はこの部屋に籠もってるの。
他にしたいことなんてなにもないのよ。食べずに済むなら食事もいらない。
花とその香りに埋め尽くされた部屋。冷蔵庫の手前の床に横たわる友達。
──ねえ、由美。「お花見」はもう十分できてるってどうしてわかってくれなかったの? この部屋で、血の匂いを消すためのたくさんの花で。
~END~
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