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「桜ってあんまり好きじゃないんだよね〜」
春の空気に舞い散る淡いピンクに、自然と口から零れた言葉。
「私さ、桜見ると何ともいえない寂寥感に襲われるのよ。やっぱり卒業式とセットになってるからかな、『別れの花』っていうか」
我ながらなんて感傷的。
自分に酔ってるかのような私の台詞に、久しぶりに会った学生時代の友人が遠慮がちに返して来た。
「あの、もし冗談だったら野暮なんだけど。……卒業式って桜咲いてなくない?」
「……え?」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。ぽかんと口を半開きにした私に、彼女が続ける。
「だって卒業式ってせいぜい三月半ばでしょ? 高校や大学なら二月だったりするじゃない。まあ桜の開花も早まってて、最近は入学式まで持たなかったりするらしいけどさ。少なくともあたしたちの時代は咲いてなかったと思うよ〜」
友人の話に思考が停止してしまった。最後の卒業式は大学で六年前。その前は高校で、……もう十年。一昔前、か。
顔には曖昧な笑みを浮かべたまま記憶を探る。
私の心の奥の奥、白に針の先の紅を落としたような桜の花びらで覆い隠されていた過去。
──ああ、そうだ。卒業式じゃない。あれは、三月も下旬。
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