桜の季節

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    ◇  ◇  ◇ 「……そういやそうだわ。ありがと、職場で言ったりしてとんでもない恥かかなくて済んだ」  一瞬過去に飛んだ意識を引き戻し、平静を装って礼を言う私に彼女は笑みを浮かべて手を振った。 「ううん。そういうことってあるよね。多分『桜と卒業式』って、あとで刷り込まれたイメージだと思うよ。絵になるから歌とかお話とかの演出で使われてそうだもん」 「ああ! 確かに〜」  刷り込み、すり替え。  そうね、きっとその通りだわ。  私の中で、勝手に記憶が改竄(かいざん)されていた。  桜と結びついた彼との別れの痛みが、卒業式の級友との別れのその場限りの寂しさに。  十年の月日で、私は心の中とは裏腹の表情を取り繕える大人になった。  だから今、笑って友人と会話しながらも心の片隅で考えている。の過去も修正したし、そもそも桜に責任なんかないんだけど。  初めて気がついた。自覚した。  学校でも職場でも、何かと理由をつけて避けていたことに。  直前に交わした高校の友達との約束も、口実をつけて行かなかったから。  ──あれ以来、私は「お花見」をしたことはないんだわ。                             ~END~
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