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「ええー。クラシック」
平沢が、肩をすくめる。すると飛山はすかさず言う。
「カッコいい!素敵ですねえ先生」
若い女にここまで言われても全く態度は変わらない。自分の車に乗っているのが奇跡のように感じてきた。無感情、という言葉が天堂にはお似合いだ。よほど、先日のアナフィラキシーの方が生き生きしていたような……。
「あ、もう着くよ」
バーの隣のパーキングに停める。隣のビルの二階まで、疲れた様子もなく手術室メンバーは階段を昇る。朝から勤めてほぼ立ち仕事でこの元気。皆、普通に体力お化けだ。
カウンターにビールのサーバーが並ぶバーは、少しイギリステイストなのかおしゃれだ。
ここが気に入って、よく来るのだが飛山と天堂は初めてなのだろうか。
「わあー素敵。ね、天堂先生」
「ああ」
素っ気ない態度は、看護師でも医師でも変わらないのか。まあ、それがこの男の良いところなのかもしれないが。誰にも変わることがないのは、ある意味職場では貴重と言える。権力に逆らえない自分なんかは、特に、、だ。
皆でカウンターに並んで座って、それぞれビールと食事を頼む。俺はノンアルビールを頼み、タコライスを頼む。とにかく腹が減ってどうしようもなかった。
「私フィッシュアンドチップスかなあ」
「サラダ食べたいです」
女性陣が頼んでいく中、天堂はお茶と野菜スティックを頼んでいる。
「天堂先生揚げ物とか、食べないんです?」
飛山が近くで胸を押しつける。途端に背筋がヒヤッとする。何故か、は分からないのだが……
「夜はほとんど食べない。太るから」
「ええー」
顔が青ざめていく飛山は、それでも果敢に天堂にアタックしている……ように見える。
天堂の表情は眉間に皺が寄ったままで、変化はなかった。
どうすんの、と平沢が小声で話しかけてくる。俺は、飛山を仕掛けるつもりでいた。当然だろう、これで化けの皮が剥がれるかもしれないんだから。
『このままだと、飛山ちゃんベッドまで行っちゃうよ』
ぎく、と心が変化する。冷や汗が出てくるのが分かる。いいだろう、もう二人とも大人なんだから。
「二人の雰囲気に任せよう」
「じゃあ、適当に抜けますかね」
平沢はそう言うが、俺は観察する気満々であった。
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