過去の報い

2/10
前へ
/49ページ
次へ
「……」 「約束です」 「分かり、ました」  しぶしぶ了解する。こんな大変な手術前に心を揺さぶられたくは無い。それに、今日は父が来るのだ。 「よろしくお願いします」  父の声だ。手術室の中に挨拶に来たようだ。 「お久しぶりです、父さん」 「見違えるような医師に成長しているようだね。元気にしているかい」 「……はい」 「お前の麻酔を見たかった。期待しているよ。こちらは助手の今枝(いまえだ)医師」 「今枝です。よろしくお願いします」  おおよそ、外科医、とは見えないような華奢な青年である。が……童顔なのか、、年齢不詳で分からない。 「お若いですね」 「いいえ。そんなに見た目ほど若くは無くて。天堂先生のご子息ですか、お世話になっております」  ニコニコと可愛い笑顔の外科医、今枝は、学生のような出で立ちである。しかし、父の片腕として気に入られているようだった。 「僕、天堂先生に憧れて、大学病院まで追いかけたんです」  今枝の姿を見ていると乾が声をかける。 「潤一郎……?」 「えっ、あれっ」  お互い顔を見合わせる。 「乾先輩!先輩ですか」 「潤一郎……!立派になったな」  熱い目線が乾に注がれる。この、今枝と言う医師、乾の後輩ということか。 「まさか、仕事で会うとは思わなかった」 「僕もです。先輩、ここにおつとめなんですね」 「うん、結構長いよ」 「僕は、今天堂教授と」 「天堂です。息子がお世話になっております」  丁寧な挨拶をしているが、父は若い私を犯した人物だ。何も、反省の余地などない。子の男は、自分の性欲正直だ。あとは権力……脅され、犯される人生はもうウンザリだ。 「よろしくお願いします」
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加