過去の報い

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もうこの時点で出血がそんなにあるとは…… 「輸血の準備して。あと血算取るから」  いつでも輸血の準備をしよう。基本的には、出血は500ミリリットルから輸血の対象ではある。それをどこでするか、というのも、麻酔科の腕にかかっている。 「腫瘍、大分でかいですね」  鈎持ちの今枝は、手は出していないが術野は見えやすいようだ。患者の又の間からしっかりと術野を見られるのと、頭にヘッドライト付けて照らしているからか、奥まで見渡せているようだ。 「うん。それでは輸血をしてもらいつつ、私どもはもう少し剥がしにかかりましょう」 父の言葉に反応して、輸血、と看護師に言う。 「何単位行きます?」 「そうだな、とりあえず四」  まずは四単位いきながら、また決算と血圧を見ながらいくしかない。しかし、私の麻酔に何かを言ってくるとは思わなかった。父の一挙一動に反応してしまう自分が悔しい。  私と、父はもう終わったのだ。あの地獄の日々にピリオドを打ったのは私自身。もう忘れてしまえ。私は父の、恋人では無い。息子、なのだ…… 「プローリン*、とりあえず十出して、針二本付けておいて」  緊張が走る。乾はもう、話さなくなっていた。血管を傷つけてしまったら、大きなリスクになり得る。なるべく慎重に、そっと剥がさねばなるまい。 「乾君、もう少し慎重に。少し剥がしてだけで大出血するぞ」 「は、はい……」  緊張が走る。っそれでも父は、動じずに術野の管理を続けている。執刀医よりも、的確に術野を表現し、それを麻酔科にも伝えてきている。まさか、仕事場で父の偉大さを知ることになるとは、私も驚きを隠せない。  患者のモニター音が変わる。血圧が低くなっている。上が90下は50。これは輸血を追加して、少し麻酔の量をかえていくか……しかしバッキング*するわけにもいかない。 「輸血、六追加」  カチカチ、と持針器の音がする。奥深くに、針をかけていく……そのまま、上から鉗子で押さえる。また針で縫う。その繰り返してある。外回り看護師と、とりあえず輸血を行き始める。血圧は85……うん、少し兆しがあるだろうか。術野が落ち着いて行くことを祈るが、血圧の低下は術野のせいかもしれない。圧迫されたことで、血圧が下がったのか。だとしたら…… 「ボリュームあげよう、ヘスパンダー*」  細胞内液を与えてみる。そして、輸血はそのまま続けていった。
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