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父親らしさ、を思い出して懐かしむ自分もいるのだと感慨深い。
あれだけ嫌った、あれだけ恨んだ父親の憎しみは今となっては溶けているのだろうか。乾は、真剣な表情で外科医の仕事をしている。閉創の時間を読む。乾の腕なら今から30分後には·····それなら、もう筋弛緩薬は、今のタイミングで入れて、次はなくてもいいのかもしれない。
外科医の仕事に合わせて麻酔の内容を変えていくのも麻酔科医の仕事だ。
「翼、仕事のあと、食事に行かんか?」
突然普通に話しかけられて、麻酔中の自分は驚く。今までの父親のイメージと、ここまで違うとは·····
「いいえ、私はまだ仕事がありますから」
「乾先輩は?どうですか?天才外科医と食事というのもいいでしょう」
今枝が乾を誘っている。この二人、どうやら仲が良かったように見える。
「ほう、今枝君、彼とは同じ大学なのかな」
「そうなんです、同じサークルで、外科で。とってもよくして頂きました」
乾の手が止まる。
「·····そう、ですね、可愛がっていたと思います」
「なるほど」
父の顔は、マスクで見えない。しかし今枝という外科医を可愛がっていることは分かる。感情のゆらぎ、燃え立つ何かを感じる。もしかすると、この男も私と同じように·····
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