過去の報い

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執刀医である松本が戻ってきた。 「松本先生、食事にお誘いを受けました」 「おお、ありがたいのですが·····なんせ時間もこんな時間でして。また仕切り直して、ということで私がお声をかけますので、それでいかがでしょうか?本日は御足労下さりありがとうございます。天堂先生の手技は本当に助かりました」 今枝がクス、と笑った。 「天堂先生、それでは私たちは帰りましょう、また呼んでくださるようですし」 今枝が仕切っているように見えるが、これはきっと父が今枝を教育しているのだろう。彼は取り込まれているような気がする。これは、息子の勘であるのだが。 「息子と久々に話がしたかったが、嫌われてしまったようだ。翼、母さんが寂しがっているからたまには顔を見せてあげなさい」 そうですね、と無気力に答える。 そう、これが父のやり口だ。 母親を人質にとり、私を散々犯してきた。もうその手には乗らない。私はもう、自由になったのだ。 閉創は滞りなく終了し、麻酔を醒ましていると、今枝が話しかけてきた。 「天堂先生·····息子さん、なんですね。全然似てない·····けど、とっても性格は似ているのかも」 人懐っこい顔と声。この男は、なんだかこちら側の人間のような気がする。 「·····そう、ですか」 「あんまり人は好きじゃなさそうですね」 その通り、ではあるが、その理由として挙げられるのは君が崇拝している私の父親のせいなのだが。 「私は私の仕事が出来ればいい。そろそろ抜管するので下がってください」 バッサリと切り離す。それも、仕方がない事だろう。とんとん、と患者の肩を叩く。気管内にチューブが入っているため、患者は話せない。しかし、手術が終わったことを告げると、理解してくれることがほとんどだ。稀に暴れる患者もいるので、抜管前の看護師たちの緊張は当たり前になっている。 「手術は終わりました、今から管を抜くので深呼吸をして·····そうそう」 抜管、と言うと、看護師がすぐ介助につく。抜いて、の一言で看護師は気管チューブのカフを抜いた。チューブが外されていく。患者は一息つき、それから手術は、と言った。 「手術は松本先生から、詳しく聞いてくださいね」 看護師が代わる代わる話しかける。気持ち悪くないですか、苦しくないですか。そんなことをしていると、乾がやってくる。 「ありがとうございました、天堂先生」 「·····いえ」 「少しお話が」 「今日、ですか」 「はい。ダメですか」 「·····少しだけなら」
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