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そのまま、乾は患者についている。
この前、外科の医師たちの態度について言ったことで、こうして態度を改めてくれるならいい事だ、と思う。
乾から何を言われるのか、不安がある。けれども、毅然とした態度をとっていれば間違いは無い·····はずだ。
心を乱すのはいつも、乾だ。
私はもう、父に飼われていた可哀想な子犬ではない。それを証明しなければ·····流されるのはもうたくさんだ。
患者を送り、麻酔薬の片付けをしていると乾が戻ってきた。少し、表情は暗い。きっと、麻酔のことだろう。
「天堂先生、俺の患者の事なんですが」
「·····私からは何も言えません」
「あの、どうしてかけてもらえないんですか、マンマの方も天堂先生にかけて貰えると思って、そう思って待っています。ですから」
「私の気持ちがついていきません、私は·····心を乱されたくない、あなたに」
「そんな、それじゃあ俺が全部悪いってことですか」
「それは·····」
過呼吸で助けてくれた乾が浮かぶ。二度も助けてくれた時、甘い愛撫までした、乾の指と唇を思い出す。
「先生は麻酔する人間を選ぶんですか、患者は·····患者に罪は無いのに」
「私は、あなたの事なかれ主義も嫌だし、人と関わって話をしたって何も変わらないのにそんなことに心血注いで、人の心を乱すあなたが許せない」
わなわなと震えが止まらない。この怒りにも似た感情はなんだ?
「俺だって、あなたみたいにデータデータデータ、血も涙もない麻酔はどうかと思いますよ」
私の麻酔が悪いのか?私の麻酔は間違っているのか·····?いや、これが患者を助けると信じて突き進んできた道だ。毎日、人の役に立つのだと、医師になるのだと言い聞かされて育った思春期。父親に犯されながらも母を守りきった高校時代。それが走馬灯のように思い出されていく·····。
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