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「麻酔にはデータが必要です、その必要性が分からないなら·····やはり私は、あなたの麻酔はかけられない」
「天堂先生、それだけじゃない·····俺はあなたのこと」
「止めて下さい」
強い口調で乾の言葉を遮る。
もう、いたずらに心を揺さぶるのはやめて欲しい。ストレートの乾に、何が出来るというのか·····私は何を期待している?
「天堂先生」
「勘違いしているだけです、それは·····私はあなたのことが大嫌いだ」
傷つける言葉をわざと言う。乾の、固まった顔を見ながら手術室を去っていく。
もう、終わりだ。乾医師とは『縁がなかった』。それでいいだろう。これ以上かき乱されたくない。平穏に麻酔がかけたいんだ。
更衣室で着替えようとカーテンを開ける。
そこには父、要の姿があった。
「翼·····拒否もどこまで続くかな」
「父さ·····」
そのまま、深く深く口づけられる。思い出される、青春の時·····台無しになった私の若い時の感情。それを、未だにこの人は奪おうというのか。まさぐられた手は、すぐ股間に伸ばされ、陰茎を撫でられる。くっきりと、形が出るまで擦られて腰が抜ける。
「あ、ああ·····」
「身体は覚えているようだね、私の手と唇を」
「やめてくださ、い」
「翼、君は私のものだよ、遠く離れていても」
その言葉に絶望しながら、父の愛撫を拒否できない自分。キスさえも受け入れてしまう自分が怖い。人間が嫌なのでは無い、受け入れてしまう自分。嫌だと言えない自分が許せない。乾に嫌だ、と言える、拒否できる自分は、もしかしたら私には必要なのかもしれない。
「いや、いや·····だ」
「受け入れなさい、翼。私の愛を」
それは、愛では無い。愛じゃないんだと言い聞かせた遠い昔の私がいる。父の陵辱が愛なのでは無いかと勘違いする自分もいた。でも違う。今では分かる。本当の愛とは·····
脳裏に、何故か乾が映る。
乾を、私は好いている·····のか?理解して欲しい·····伝えたい、ということか·····わかって欲しい·····でもそれでは、乾の思うつぼ。私は私だ、誰にも屈さないはず·····。
「お疲れ様でーす」
更衣室のカーテンを開けて、乾が入ってくる。慌てて父は離れて行ったが、不思議そうな顔をして乾はそれを見つめていた。
「なんか、親父さんと仲悪いんですか」
そう問われても、多少は、としか言えない自分に腹が立ってくる。怖くて言えない。養父が男色で、その上·····息子を犯していた、なんて知られたら·····私は、母は、どうしたら·····
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