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逃げ帰るように手術室から離れる。早々に家路について、明日のために休む。眠りは全てを解決する気がする。
父に犯され、穢れた自分も、母を助けた自分も、自ら生贄のように捧げた自分も·····
シャワーを浴びるて、ベッドの上二横になる。震えてガタガタと歯を鳴らす。怖い。父に取り込まれ、自分がなくなってしまう怖さは別格だ。父の前では「麻酔科医・天堂」はいない。哀れな怯えた子犬·····麻酔をほめたたえ、ますます磨きがかかったモラハラとセクハラ。息子に対する性欲。あんな人物が立派な外科医?聞いて呆れる。本当に、患者のためを思っている外科医は山ほどいるってのに。本当の医者は、一番に患者のことを考える人だ。それなのに父はどうだ。立派な麻酔科は、仕立てられた枠の中には無い。手術が全て、そうかもしれない。医師の中では。でも、もっと、患者の気持ちを聞いて、患者に向き合っている医師も沢山いる。マスメディアに乗せられ、取材を受け、本を出版し·····
もっとやれることがあると思う。医師はもっと、患者のために頑張れる·····
やはり、嫌悪感が出てくるとともに、乾の顔がチラつくのはどうしてだろう。私に対して気を使わない乾は、それでも患者のためにたくさんのことをしている。残って病棟での残務、必ず担当患者には朝会いに行く、面倒くさい麻酔科にも渋々話をしに来る·····
「乾·····私はあなたを」
乾が言ったように、呟いてみる。なんだろう。乾を·····どうしたいのだろう。どうされたいのだろう。
「今日は酷いことを言ってしまったのかもしれない·····乾は、乾先生はきっと悪くない」
悪いのは、自分だった。
受け入れようと、自分もしていたのにそのタイミングでは受け入れられなかった。少し、少しだけ、私に勇気をくれ。お願いだ。
ベッドのシーツの上で布団に包まり、縮こまる。
父の与えた傷は、大きくなっても変わらない。それどころがより、強大に私を締め付けていくようだった。
乾の麻酔を、私はかけられるのだろうか。
乾は私を、許してくれるのだろうか。
父から受けた傷を、このままどうすれば良いのか分からない。幼い私は、どうするべきだったのか·····?母に罪は無いのか?私は、母さえも憎んでしまい自分の感情をどこに持っていけばいいのか分からない。全て、父である要が仕組んだこと·····。
不安と焦燥で眠れない。明日がオンコールでよかった、と本気で思った。出勤では無い·····そうだ、明日のオンコール、もし呼ばれたら·····乾と仕事するのかもしれなかった。
闇の中、私は一人、怖さで咽び泣いた。
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