血の塊

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2  マンマの患者に、麻酔に関してのいきさつを話す。  患者は受け入れられないといった風で、首を横に振る。 「それでも、お体の安全を考えたらこれが最善だと思うのです」 「私は全身麻酔受けられないって事ですか……そんな」 「違いますよ、今は、です。必ず手術できる日が来ます」 「その間に、癌が広がってしまったら……」 「それなのですが、検査をしていく間、化学療法か放射線療法を受けて頂こうかと思っていまして」 「えっ?」 「そうすることで、腫瘍を小さくできるかと思うのですよ」 「そうですか……でも先生前に副作用が、って」 「それは有るんです。ですので……」 「それが嫌だから手術を早くしたかったんです、なのに」  患者はまた病室で泣き出してしまう。どうしたらいいのだろう。困った。 「また、旦那様と一緒にお話をしたいです、次の旦那様が来られる日を……」  難しい。患者の考えていること、自分がしたい治療、そこがバラバラに感じる。こういうときにどうしたらいいのだろう。 「またあとで、お話を伺いますね」  多忙な時に、こうも話が長くなるのは自分の話かたがいけなかったのだろうか。 しばらくこんなトラブルはなかったからか、とても心身ともにダメージが大きい。 麻酔は、患者が眠ってしまう。だから話せない。自分のしたいようにできるのではないか。それに比べて俺たち外科医は、患者に向き合いながら治療しなければならない。それなのに……。 「くそっ」  ここへ来て、苛立ちが湧き上がってきた。さっき、天堂はなんと言った?勉強しろと。勉強だけでは、カバーしきれない。お前ならどうやるのか、やれるのか見てみたい。眠った患者はなにも語らない。麻酔科の方が楽に決まっている……。  ピリリリリリ……院内PHSが鳴る。 「乾先生、オペ時間決まりましたー」 「あ、うん」 「低位前方、14時着」  14時着……え?15分後か、これは昼飯を食べている時間はない。  とりあえず病棟の患者を訪室して、それから手術室へ行かなければ。 天堂に借りた本を無造作に病棟の机に置き、戦場へと戻っていく。
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