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スーパーからの帰り道、夕焼けを眺めながら彼女と河原沿いを歩く。オレンジから薄いピンク色のグラデーションになった空がとても綺麗で、俺はスマホを取り出し、その風景を写真に収めていた。
そんな中、隣から聞こえてきた「グゥ」というお腹が鳴る音。
横を見れば彼女が「お腹すいた」と呟いている。夕焼けに照らされた彼女の横顔に、ふと口元が緩む。
「昼飯、なに食べたの」
「ドーナツ」
「それ、おやつだよね」
「だって、仕事忙しくてコンビニにお弁当買いに行く時間もなかったし」
「今日は絶対早く帰るって決めてたから頑張ったんだよ」と、こちらを向く彼女。かと思えば、また「グゥ」と鳴るお腹に、俺は笑いが止まらなくなった。
「ちょっと笑いすぎ」
「いや、全力で空腹を主張してるから」
ふいと横を向いてしまった彼女に「ごめんごめん」と手を伸ばす。握りしめた手は温かかった。
「今日は俺が腕によりをかけて手料理振る舞うから」
「……ハンバーグ。チーズ乗せで」
「了解しました」
俺の返事に、ゆっくりと手を握り返してくれる彼女。「じゃあ、許してあげる」と笑う彼女を見つめながら、ああこの笑顔も写真に撮れたらよかったのにと、そんなことを思う。
彼女の手を握りしめているとの、スーパーの袋を持っているのとで、それはかなわなかったけれど、この瞬間がどうしようもなく愛しく思えた。
何気ない、ありきたりな日常。
けれど、そんな普通の日常こそが尊いのだと感じながら──。
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