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菖太朗との最後の食事が終わり、セリカはひとり後片付けをしていた。
菖太朗は今、風呂だ。
その間に、セリカはひとりきりのキッチンで食器をひとつひとつ丁寧に洗っていく。
洗いながら、セリカは思った。
すべて、きれいにしようと。
セリカは明日、菖太朗とは他人になる。
この部屋にじぶんがいた形跡を、残したくはなかった。ちょっとした洗い残しすら、いやだ。
白い皿についた汚れをスポンジで強く擦る。
「…………」
ふと、その手を止めた。
白い皿に流れるのは、真っ赤な肉の血。
セリカは流れていく赤を静かに眺めた。
眺めながら思う。
あれだけ親密だったふたりの関係は、こんなにもあっさり終わるものなのか、と。
恋人というのは不思議だ。
家族とも、友達とも違う。一度別れてしまうと、他人よりずっと遠い人になってしまう。
付き合わなければ、もっとずっとそばにいられたかもしれない、と思うとどうにかして時を巻き戻したい衝動に駆られた。
「手伝おうか?」
振り返ると、カウンターの前に菖太朗が立っていた。いつの間にか、風呂から上がっていたらしい。
「お皿、俺がしまうよ」
「あ……ありがと」
ふたりでキッチンに並び、片付けを進める。
「そういえばこの皿、セリカが買ったんだったよな。持ってく?」
セリカは「いい」と首を振る。
「高いものじゃないし、私は新しく買うつもりだから。そのまま菖太朗が使って」
「そっか。分かった」
沈黙が落ちる。
沈黙の中、セリカは無心で皿を拭いていた。
「片付けまで任せちゃって悪かったね」
すべてが終わると、菖太朗が言った。
「いいよ。あ、でもひとつお願い。明日ゴミの日でしょ。生ゴミは頼んでもいいかな? キャリーケースとゴミ袋両方持っていくのはちょっと面倒だから」
セリカが言うと、菖太朗は素直に頷いた。
「分かった」
「ありがとう」
片付けが終わると、ふたりは「おやすみ」と夜の挨拶をして、お互いべつべつの寝室に入った。
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