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翌朝。
セリカが帰り支度をしていると、寝ていていいと言ったのに、菖太朗がわざわざ起きてきた。
キャリーケースを引き、玄関に向かうセリカに、寝起きでぼやっとした顔の菖太朗が言う。
「今までありがとね、セリカ」
「こちらこそ。お幸せにね」
セリカは菖太朗のぼやっとした顔に苦笑しながら、手を振った。
この顔を見るのも最後かと思うと、なんだか感慨深いものがある。
特別イケメンというわけでも、お金持ちというわけでもなかったけれど、菖太朗との時間はなんだかんだ楽しかった。
菖太朗はいい人だった。
こんなじぶんにも優しくしてくれた、唯一の男性だ。
背中を向け、玄関の扉に手をかけると、菖太朗が「セリカ」と名前を呼んだ。
セリカは静かに振り向く。
「なに?」
菖太朗は一瞬視線を惑わせてから、もう一度セリカを見て言った。
「お前も、幸せになれよ」
菖太朗の言葉に、セリカは笑みを浮かべる。
「うん、ありがとう」
セリカは頷き、菖太朗と住んだ部屋を出た。
パタン、と閉まる扉を見つめながら、セリカは最愛の恋人へ最後の言葉を呟く。
「バイバイ、ハルカ」
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