セリカとハルカ

5/6
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 翌朝。  セリカが帰り支度をしていると、寝ていていいと言ったのに、菖太朗がわざわざ起きてきた。  キャリーケースを引き、玄関に向かうセリカに、寝起きでぼやっとした顔の菖太朗が言う。 「今までありがとね、セリカ」 「こちらこそ。お幸せにね」  セリカは菖太朗のぼやっとした顔に苦笑しながら、手を振った。  この顔を見るのも最後かと思うと、なんだか感慨深いものがある。  特別イケメンというわけでも、お金持ちというわけでもなかったけれど、菖太朗との時間はなんだかんだ楽しかった。  菖太朗はいい人だった。  こんなじぶんにも優しくしてくれた、唯一の男性だ。  背中を向け、玄関の扉に手をかけると、菖太朗が「セリカ」と名前を呼んだ。  セリカは静かに振り向く。 「なに?」  菖太朗は一瞬視線を惑わせてから、もう一度セリカを見て言った。 「お前も、幸せになれよ」  菖太朗の言葉に、セリカは笑みを浮かべる。 「うん、ありがとう」  セリカは頷き、菖太朗と住んだ部屋を出た。  パタン、と閉まる扉を見つめながら、セリカは最愛の恋人へ最後の言葉を呟く。 「バイバイ、ハルカ」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!