透明のマント

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 おれはついに「透明マント」を完成させた。 これで体をすっぽりと包むことで、自分の姿を隠すことができる。もうおれの姿は誰にも見えない。だからどんな場所にも見つからずに出入りすることができるのだ。  よし、まずは家族で実験してみよう。おれは向いのドアを開けて部屋に入った。姉が机に向かって真剣な顔で勉強している。試しにおれは姉の顔を覗き込んでみた。が、何の反応もなし。次に姉の周りで鬱陶しくダンスを踊ってみた。でもやはり目立った反応はない。ふふ、やはり効果は本物みたいだ。  次に祖父の部屋に入ってみた。祖父は将棋の本を片手に、駒と睨み合っている。近々開催される地域の将棋大会のための練習だろうか。おれは祖父と向いあうように将棋盤の前に座り、駒を動かしてみた。一瞬ピクッとした反応を見せたが、こちらの様子には気づいていないようだ。駒が勝手に動いたことに驚いているのだろう。ではこれはどうだ。桂馬を動かして、王手をかけてやった。祖父は苦い顔をしている。くく、これは愉快だ。  これで効果はほぼ実証されたわけだが、最後の仕上げが残っている。 俺はマントを被ったままリビングへと向かった。リビングでは両親がお酒を飲みながらテレビを見て笑っている。よし、最後はちょっと思い切ってみるか。おれはテレビの前に立ち塞がった。が、相変わらずこっちを向いて笑ったままで、おれの姿は見えていないようだ。調子に乗ってゾウのモノマネをやってみるが、笑いが少し増したぐらいで目立った反応はない。 よし、完璧だ!改めておれは自分の研究力に自信を深めていると、 「おにいちゃん!」  ダイニング側から妹の声がした。 「テレビ見えない!どいてよー」  なに!妹にはおれが見えているのか! 「ちょっと、葵、ダメじゃない。お兄ちゃん、透明ごっこやってるんだから」  えっ……まさか…。 「葵、バラしちゃったの?」 「せっかく我慢しとったんじゃけどな」  姉と祖父も部屋から出てきて、みんなで笑いあっている。  そして明らかにおれの目を見て、母が言った。 「終わったらちゃんと片付けるのよ。そのカーテン」
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