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これは、絶対に僕だけの秘密にしなければ――。
すぐには気づかなかった。左手が透明になっていることに。
朝目を覚ましてから、左の手の甲で目をこすった。
時間を確認しようと思い、枕元に置いてあるスマートフォンを手探りで掴んだ。
それから、スマートフォンを顔の前に持ってくる。まだ、完全には開き切っていない目で、ぼんやりと現在時刻を確認した。
瞬間。悲鳴とも奇声とも呼べない声が出た。化け物に予期せず出会ったら、こんな声が出るのではないだろうか。そう思うほどの声。
掴んでいるはずの左手が消え、スマートフォンが虚空に浮いているのだ。
僕は、しばらくの間、呆然としていた。
そもしやと思い、長袖をめくり上げた。やはり、左腕まで綺麗に消えている。
言葉が出ない。声の出し方を忘れたように。
夢ではない。感情の振れ幅が大き過ぎるからだ。僕は夢の世界では無感覚だから。
でも、極端に存在感が薄い僕なら、こんな不可思議なことも起こるのかもしれない。
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