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清子の五つ上の兄、翔太の好きなものは虫、とくに甲虫、それと小さくて鳴き声を上げない小動物だった。
ハムスターやハリネズミ、なぜか赤腹イモリも翔太のお気に入りだった。
几帳面な翔太により小さなゲージに匿われた動物たちは、十分な食糧と適度な闇、たまのおやつと開放時間を与えられ、満足そうにも退屈そうにも見えた。
「ハムスターは夜行性で昼間はとっても眠いんだ。大きな音をたてたりゲージを揺すってはいけないよ」
「リスはどんぐりと同じくらい虫も好物だから、タンパク質をとるためにたまにバッタやコオロギをあげると喜ぶよ」
「赤腹イモリは毒があるから、触った後は必ず手を洗うんだよ」
翔太は清子が動物と接するのを禁止することはなかった。
ただ動物たちと遊ぶためには詳細なルールがあった。
翔太の言う事はいちいちもっともだったから、清子は素直に従った。
翔太が本を読んだり絵を描いたりするそばで、清子は人形を着せ替えて遊んだ。
両親は共働きで、家には父方の祖母が子守と留守番でいるだけだった。
祖母は痩せぎすで顔色が悪く、常に不機嫌な人だった。
自分たちに無関心な大人に囲まれて育った兄妹には、互いの存在しかなかった。
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