カヒガシくんはヤクザになったからプレステを持っていく

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 中学生の時の同級生に、カヒガシくんという男子がいた。  僕は彼とは別に仲良くなく、多少気が強い人だなという印象を抱いていたくらいで、特に怖いとも不良だとも思わなかった。  ただクラスメイトではあったので、適当に挨拶をしたり、顔を合わせた時には雑談したりすることはあった。  中学を卒業し、高校生になった。  夏休みのある日、カヒガシくんから電話が来た。  それまで、特に友達づきあいもなかったのに。 「久しぶりだな」 「うん。どうしたの?」 「クナリくんさあ、プレステって持ってる?」  僕は任天堂のゲーム機を親からあまり買ってもらえず、アルバイト代でプレイステーション(初代)を買って持っていた。 「あるよ」 「貸してくんない?」 「え、プレステ本体を?」 「そう。一週間くらい」  あまりコンシューマ・ハードを人に貸すということは経験がなかったが、その時はあまりやりこんでいるゲームもなく、まあいいかなと思った。  こういう時に、なにに使うのかとか、なんで借りてまで必要なのかとか、そういうことを訊く機能が僕には幼少期から欠落していて、今もあまり変わらない。  ただ、貸せるかどうかだけで判断してしまうので、よく人から驚かれる。  いいよ、と答えると、その日の夕方にカヒガシくんはやってきた。  スクータにまたがり、ぼさぼさの天然パーマだった頭が、やたらしっかりしたパンチパーマになっていた。 「わりいな」 「まあ、今やってるゲームないからいいよ。一週間ね」 「ああ。一週間」 「あとこれ、メモリーカード」  当時のプレイステーションは、メモリーカードという、神社のお守り大の、平たい外づけの記録媒体が別売りされていて(一つ二千円もした)、これがないとゲームのデータがセーブできない。
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