カヒガシくんはヤクザになったからプレステを持っていく

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「いや、メモリーカードはいらねえ」 「え、でもこれがないとセーブできないよ」 「本体ありゃ大丈夫だから」 「あ、そう」  そう言ってカヒガシくんは、プレイステーションの箱を抱えて、スクータに乗って去っていった。  なおこの時、彼の周りには同じくらいの年恰好の男子が三人ほどいて、みんなスクータに乗っていた。  三人とも知らない人だったけど、カヒガシくんの高校の友達かなと思った。一様にへらへら笑っていたので、あまり印象はよくなかった。  四つのスクータが、千葉県流山市のとある街角を曲がって消えていくのを、ぼうっと見送った。  これが、カヒガシくんを見た最後になった。  ■  二週間が経った。  もうすぐ夏休みが終わる。  カヒガシくんからは音沙汰がない。  これはやられたかな、と(ようやく)思った。  チョコレートや安いおもちゃならともかく、アルバイトをしてようやく買ったゲーム機の借りパクを、許すわけにはいかない。  カヒガシくんてそんなやつだったかなあ、それともルーズなだけで忘れているのかなあ、と首をひねった。  子供の話に親を絡めるのは気が咎めたが、こっちも泣き寝入りは嫌ので、カヒガシくんの家に電話をかけた。  彼の家に電話するのは、これが初めてだった。  お父さんらしい人が出た。 「はい、カヒガシです」 「あ、僕、中学の時にカヒガシくんと同級生だったクナリと申しますが。カヒガシくん、いますか?」 「どういったご用件でしょうか」 「ご用件、……僕、二週間くらい前に、カヒガシくんにプレステを貸しまして」 「プレステ?」 「あ、ゲーム機なんですけど。プレイステーション。ファミコンみたいな、ゲーム機の本体です」 「ああ。あいつがそれを、返しておらない」 「そうですね。あ、でも忘れてるだけなのかもですけど」 「うちはご存じですか?」 「家? いえ、カヒガシくんの家は行ったことないです」 「来ていただければ、弁償します。お金を払います」 「え?」  あまり構えずに話していたら、そんな展開になったので驚いた。  お父さんのほうは、僕の話に驚いたりうろたえることもなく、ずいぶん淡々として、当たり前のような様子だった。
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