3人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「いや、メモリーカードはいらねえ」
「え、でもこれがないとセーブできないよ」
「本体ありゃ大丈夫だから」
「あ、そう」
そう言ってカヒガシくんは、プレイステーションの箱を抱えて、スクータに乗って去っていった。
なおこの時、彼の周りには同じくらいの年恰好の男子が三人ほどいて、みんなスクータに乗っていた。
三人とも知らない人だったけど、カヒガシくんの高校の友達かなと思った。一様にへらへら笑っていたので、あまり印象はよくなかった。
四つのスクータが、千葉県流山市のとある街角を曲がって消えていくのを、ぼうっと見送った。
これが、カヒガシくんを見た最後になった。
■
二週間が経った。
もうすぐ夏休みが終わる。
カヒガシくんからは音沙汰がない。
これはやられたかな、と(ようやく)思った。
チョコレートや安いおもちゃならともかく、アルバイトをしてようやく買ったゲーム機の借りパクを、許すわけにはいかない。
カヒガシくんてそんなやつだったかなあ、それともルーズなだけで忘れているのかなあ、と首をひねった。
子供の話に親を絡めるのは気が咎めたが、こっちも泣き寝入りは嫌ので、カヒガシくんの家に電話をかけた。
彼の家に電話するのは、これが初めてだった。
お父さんらしい人が出た。
「はい、カヒガシです」
「あ、僕、中学の時にカヒガシくんと同級生だったクナリと申しますが。カヒガシくん、いますか?」
「どういったご用件でしょうか」
「ご用件、……僕、二週間くらい前に、カヒガシくんにプレステを貸しまして」
「プレステ?」
「あ、ゲーム機なんですけど。プレイステーション。ファミコンみたいな、ゲーム機の本体です」
「ああ。あいつがそれを、返しておらない」
「そうですね。あ、でも忘れてるだけなのかもですけど」
「うちはご存じですか?」
「家? いえ、カヒガシくんの家は行ったことないです」
「来ていただければ、弁償します。お金を払います」
「え?」
あまり構えずに話していたら、そんな展開になったので驚いた。
お父さんのほうは、僕の話に驚いたりうろたえることもなく、ずいぶん淡々として、当たり前のような様子だった。
最初のコメントを投稿しよう!