カヒガシくんはヤクザになったからプレステを持っていく

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「お金、ですか?」 「はい。おいくらでしょうか」  おいくら。  確か、買った時は四万円くらいだった気がする。  しかし、買ってから時間が経っているし、それなりにやりこんでいる中古品だ。 「うーん、中古みたいなもんですから、いくらっていうのは難しいんですけども。もとは四万円くらいだったと思うんですが」 「では、四万円お支払いします。クナリさんですね。住所を言いますから、取りに来てください」  はあ、と言って、住所を控えた。  中学の同級生だから、家はそう遠くない。  自転車で十五分ほどで到着した。  あたりは大して特徴のない、県道から一本入った、アスファルトの荒れた、ブロック塀の通りだった。  チャイムを鳴らすと、痩せた、古ぼけたセーターの、病気なのではないかというくらい顔色の悪い中年男性が出てきた。  カヒガシくんのお父さんだろう。 「あの、電話しました、クナリです」 「はい、じゃあこれ」  男性は茶封筒を差し出してきた。  中身を見ると、四万円入っていた。 「……どうも……ありがとうございます(?)」 「はい、ごめんください」  なんだこれは。  このお父さん、カヒガシくんについて借りパクの連絡が来るたびに、こんなことしてるのか?  なんだか、当たり前というか、すっかり慣れた感じだったけど。借りパクも弁償も珍しいことじゃないってこと?  これ、僕が、「カヒガシくんに十万円貸して返って来ないんですけど」って言ったらどうなるわけ? 「あ、あのー」 「はい?」 「カヒガシくんは、今いないんですよね?」  僕は、中年男性の後ろの家をざっと見た。  二階建ての家は、どの窓にもカーテンが引かれている。  家の中に今プレステがあれば、それをもらえばことが済むんだけどな、と思った。  しかし。 「いません。親子の縁を切っておりますんで」  ん。  縁を切っている?  え、なに? 今、縁を切っているって言った?  僕らは高校生なのに? 少し前まで、義務教育で、親の庇護のもと暮らしていたのに?(僕は今もそうだが)  知らないことが多そうで話についていけなくなったし、それ以上突っ込んで聞くのもどうかと思ったので、僕はカヒガシ家を後にした。  振り返ると、スレートぶきの屋根や、ブロック塀や、ひなびたアスファルトが、妙に乾いて、ひび割れて見えた。  町中の人が昼寝しているんじゃないかと思うくらい、静かな休日の午後だった。
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