3人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
■
それからしばらく、カヒガシくんのことは思い出しもしない日々が続いた。
新しく買い直したプレイステーションは、前ほどは使わなくなった。
月日は巡り、春が来た。
僕の中学の同級生が集まって、お花見をしようという話が降って湧いた。
僕は中学で友達がほぼいなかったので、あまり楽しみではなかったが、お花見というのをしたことがなかったし、それなりに懐かしさもあったので出てみることにした。
会場は、中学校の近くの運動公園だった。時間は真っ昼間。
お酒は飲めないので、サイダーやファンタを持ち寄り、レジャーシートに腰を下ろした。
中学の時にそこそこ交流のあった何人かと言葉を交わしていったが、、十五分もするとそれも済んで、手持ち無沙汰になった。
帰ろうかなと思った。
その時、たまたま、こんな声が聞こえた。
「そういえば去年くらいに、カヒガシってみんなの家に来た?」
え、と思って、そこの輪に加わった。
何人かが、わっと首を突っ込んでくる。
口々に、カヒガシくんへのそれぞれの対応が開陳された。
「来た来た、うちに来た」
「サターン貸したら借りパクされた」
「おれも」
「ばかじゃん、普通貸さないっしょー」
「え、クナリくんちにも来た? まさか貸した? 借りパクされた?」
された、プレステ、と答えた。
何人かが「ばかじゃねー」と言い、別の何人かが「いや貸しちゃうよなー」と言った。
僕は、なぜか、これだけは言わなくてはならない気がして、大きめの声で言った。
「でも、メモリーカードはいらないって返されたよ」
それについては、大した反響はなかった。
そして、驚くべき情報が一堂にもたらされた。
「カヒガシさあ、ヤクザになったんだって。スカウトされたらしいよ。だからゲーム機集めてたんだって」
スカウト。
僕の頭に浮かんだのは、甲子園出場者へのプロ野球スカウトだった。
もちろんこの場合はそんなものじゃなく、不良仲間の先輩から、反社会的組織に紹介されて引き入れられたらしい。
そうか、それで、親子の縁が切られたのか。
しかし、なんでゲーム機?
「あいつまだ高校生の歳じゃん。高校生に金作らせるのに、ゲーム機中古屋に売るのが手っ取り早いんだってよ。それで上納金にするんだって」
最初のコメントを投稿しよう!