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お花見ぷれぜんつ(2)
「では、続いてのお花見はこちらです!」
司会者がマイクに響かせて言う。
ホテルのオーナーは白が混じった顎ひげに手を添えて、鋭い眼光で花木を見ていた。
香り。
先ほどの花木と異なって、その甘くて爽やかな香りはすぐに認識できる。
「私たちの花木は香りを意識しました。複数の香りがあって目で見て、花で感じて楽しむことができます。また、甘い蜜を味わうこともできます。香りは天然の香水にも適していますし、良い香りがする樹脂はすぐに固まることからアクセサリーなどにも使えます!」
部署の女性が話すと、オーナーは嬉しそうに笑む。
「とても良さそうだ。花も美しい。どれどれ」
オーナーは背伸びをして花を一つ摘んだ。
鼻に近づけて手で仰ぐと、今度は口元に近づけて吸う。
「はい、これが香水とアクセサリーです」
他のメンバーが品を持ってくる。
「うん、わしは気に入った。この香り、アクセサリーも。妻は、生前はまともに愛してるなんて言えなかったが、花が大好きだった。美しいものが好きだったが、物欲のない人だった。ただ一緒に花を見ようと誘ってくれたわしにとって退屈な日々は、本当は平和で幸せだったのだ。わしは未だに妻の墓参りを拒んでしまうようなくそじじいだ。こうやって」
オーナーは背を伸ばす。
「見上げて花を見た方が、妻がいる空に近いのだ。美しいものを見上げるお花見、わしが花木を指定したのはそういうことだ」
香水を手の甲に吹き付ける。
「しかも、この花は一年中咲きます! 花も葉もほとんど散らないので掃除も最小です!」
部署の新人が笑顔で言う。
その瞬間、オーナーが下唇を噛んだ。
「それはレプリカと変わらない。生きているかも分からない。生命への冒涜ではないのか?」
場が静かになる。
焦った新人が頭を下げると、それに気づいた部署のメンバーが謝罪をする。
オーナーが咳を一つ。
こうして次のプレゼンに移った。
「で、作太は何をしてる?」
「喉が渇いたので水を」
「琴子、作太を笑わせてこい。緊張で水ばかり飲んでるとトイレ行きたくなるぞ!」
「愛音ちゃん、そんなこと行くと意識してしまうでしょ?」
「その、主任。ちょっとトイレ行ってきますっ!」
「ほら、愛音ちゃんのせいじゃない?」
「そうか。まあ今行けばプレゼンには間に合う。急げ、作太」
「はい!」
「元気だけはいいな」
「初々しいね、愛音ちゃん」
「琴子も一歳しか変わらないだろ?」
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