金木犀の花の精

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     せめて最後に、彼女への想いを少しでも伝えたい。冗談っぽく「あなたはまるで金木犀(キンモクセイ)の花の精みたいに美しい」と告げる程度ならば、私にも可能だろうか。そう思ったこともあるけれど、実際に口にする度胸はなく……。  大学を卒業して、仕事の都合で関西を離れることになり、『キンモクセイの女性(ひと)』の顔を拝む機会もなくなってしまった。  それ以来、二度と彼女には会っていない。  今年の春、出張で久しぶりに京都を訪れる機会があったので、あの懐かしい神社にも足を運んでみた。  キンモクセイの季節ではないから、最初から『キンモクセイの女性(ひと)』との出会いは期待していなかったが……。 「あっ!」  その場所が見えてきたところで、私は驚きの声を上げていた。  潰れてしまったのか、あるいは移築されたのか。神社そのものがなくなり、更地になっていたのだ! 「……」  青春時代の思い出も消されたようで、呆然としてしまう。もしかすると、あれらは全て、夢か幻だったのだろうか。  跡地には新しく何か作られるようで、ちょうど工事中だった。黄色い工事用車両が動き回っているのを見て、それよりも淡いキンモクセイの黄色を――そして『キンモクセイの女性(ひと)』のワンピース姿を――、私は改めて思い浮かべるのだった。 (「金木犀の花の精」完)    
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