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はぁ、とひとつ、わざとらしく大きなため息をつく。すると何かを察したのか、宇宙人は素早く姿勢を正した。
「それで、お前はなんで俺のところに来た?俺が死にそうだったからか?それとも、俺を殺しに来たのか?」
どうか後者であって欲しい。もう、自分で死ぬ勇気も気力も、俺にはない。
「どっちも違います!たまたまです!」
あまりに拍子抜けするその返答に、もはや落ち込むことすらできない。なんだかもう、すべてのことがどうでもいい。
「でも、良かった!お主のようないい人のところに来られて!」
尖ったすきっ歯を見せながら二カッと笑うそいつを前に、俺はギョッと目を見開いた。‟お主”もそうだが、‟いい人”と言われたのは人生で初めてかもしれない。
「別に、俺はいい人なんかじゃ……」
「いい人です!だって、こんな美味い白飯をくれるんだから!だから、頼みがあります。お主の身体の中に入らせてください!」
大きな黒目を細めて、宇宙人は両手をあげる。まず、頼み方の姿勢がおかしい。それに……
「殺されるよりこえーわ、その頼み事」
「そうみたいですね!だから人間には言っちゃダメだよって、パパンに言われてるんです。人間が眠っている時やボーっとしている時に、こっそり身体を乗っ取りなさい。人間は臆病だからって、パパンにそう教わっています!」
突っ込みどころがありすぎる。
「パパンというのは……?」
「パパンはパパンです!」
こちらでいう、父親のような存在だろうか。でもなんだかヤバそうだから、これ以上パパンに深入りをするのはやめておこう。
「身体を乗っ取られると、俺はどうなるんだ?」
「特にどうにもなりません。あ、でも僕が入る時、一瞬ぐわーんてなります!ぐわーん、がくがくって!あと、僕が身体に入ると僕としか意思の疎通はできません。でも大丈夫!リミットは10時間です。10時間経てばたとえどちらが嫌がったとしても、僕はお主の身体から強制退場となりますから!」
やはり突っ込みどころは多いが、どうやら本当に死にはしなさそうだ。まぁ、騙されているだけかもしれないけれど。
でも、別にいい。どうせ終わりにしようと思っていた命だ。もうこの際—――
「いいよ、別に。こんな身体で良ければ」
こんな自分も、こんな身体も、もうどうにでもなってしまえ。
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