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「ダメっ!」  何か変な臭いがする。美樹は? 美樹は大丈夫なの?  また真っ暗闇の中。目が慣れてくるのを待つしかない。  美樹がいた繁華街よりも、もっと深い夜の中に突き落とされたようなざわめき。私の中で大きな不安の渦が静かに広がっていくのが分かった。  待って、ここは自分の部屋だよ。ほら、莉奈よく見て。何をそんなに不安がってるの?  今まであれだけ不思議なこと、信じられない光景を見てきたのに、これ以上何があるっていうの? でも、今まで以上に受け入れがたい、暗い影が忍び寄ってきている気がしてならない。それは扉の隙間から、白い煙の形をして私の元に近づいてきた。  煙? 何かが燃えてる。私は煙を追って、部屋の扉をそっと開けた。  扉を開けると、暗い廊下に広がった白い煙にたちまち飲み込まれていく。さっきの異臭も一層強く感じた。  息苦しい。  次々と流れてくる煙は1階のリビングのあたりから出てきているようだった。 『リビング? 火事なの? お母さんは? お母さんを助けなきゃ。』  ガターン。火の気と共に、家屋が崩れる音がはじまってきた。煙で覆われた足元を気にしながら、お母さんのいるリビングへと足を速める。 「お母さん? ここにいるの? 大丈夫?」  暗闇と煙の中、大きく育っていく炎の明るさで、リビングにしゃがみ込む人影を捉えた。 「お母さん、早く、早く逃げなきゃ」  どうしたの? そんなところに座ってちゃだめだよ。怪我して動けないの? 火に飲まれる恐怖を感じる余裕もなかった。お母さんの元へと駆け寄り腕を取ろうとした。  その時初めてお母さんが何をしているのかが目に見ることができた。 「おかあさん…… なにして……」  リビング一面に並べられた植物たち。お母さんが毎日大切に育てていたもの。炎を上げている植物たちの周りに散らばったマッチやライター。まるで、お墓参りのひしゃくでお墓に水をかけるようにして、片手鍋で植物たちに灯油を撒いている。  お母さんの表情を見た私の身体は、火の中にいるにも関わらず痛いほど冷たいものが走っていき、そのまま氷のように固まった。   怖い。    次元の歪みに落ちてから色々なことがあった。全く理解できない状況。不確かな自分に対する不安。自分に対する悪意。様々な感情による混乱。どれも直面した時はこれほど怖いことはないと思った。でも、今のこの瞬間以上には。 ************** モ ウ ツ カ レ タ ヨ。 **************
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