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 すべての明かりを落として真っ暗になってしまうせいなのか、悠真が眼を閉じてしまっているせいなのか、彼が眠っている間は辺りの景色が全く見えなかった。普通の霊なら夜はずっと起きているものなのかな? 自分のことなのに、私は自分が眠っているのか起きているのかもよく分からなかった。  だから今も、実は夢の中のことなのかも知れない。私は強迫観念を募らせて、うなされるように何度も何度も同じ考えを巡らせていた。 “悠真に迷惑ばかりかけちゃいけない。自分のことをもっと思い出さないと”  次に目が覚めたと感じた時には、私は悠真の身体を離れて、空中をふわふわと、まるでクラゲのように彷徨っていた。  風に流されるがままたどりついた先は、この前連れてきてもらった学校だった。確か2階の端から2番目の教室が私のクラスだったはず。私の身体は閉まった教室の窓に吸い込まれるようにして教室の中へと入っていった。  ざわついた教室内。壇上には私の本体がいた。卒業生への見送り会についての話し合いの進行をしている。その後ろには親友の涼が、黒板に話し合いの内容をまとめながら私のサポートをしてくれている。クラスの担任はというと、教室内の端っこの席で飾り物のように傍観しているだけ。度の強い眼鏡をかけた細面の一見気難しそうなこの古典の女教師は、まるで私たち生徒とは別の人種であるかのように、最低限での対応しかする気がないようだった。余計なこともしないだけましと、私たち生徒の方が彼女になんの期待もしなくなった分、私と涼を中心にして、案外団結したいいクラスになっている。  うん、そうだ。こんな感じの学園生活だった。中学生から通い続けて、高1に進学した時にこのクラスになった。3年までクラス替えはないけれど、この様子だったら楽しくやっていけそうだと思っていた。 何も深刻なトラブルなんてありそうもないのに……。  午前中最後の授業の終了ベルが鳴って、それぞれ仲のいいグループとランチの準備へと散らばっていく中、珍しく美樹が提案してきた。 「久しぶりに暖かいし、外で食べない?」  教室の窓側の下はちょっとした花壇になっていて、私たち4人は花壇の淵に腰を掛けて持ってきたお弁当を広げた。  あれっ? この日のランチって確か……。  私が今見ているこの世界は、ビルから飛び降りた時から、ちょうど1年ほど前の風景だということがだんだん分かってきた。  そう、確かこの後……。 「あっ、ごめんなさ~い」  私たちが座っていたのは、自分たちの隣のクラスの1階にあたる位置だった。本体の私のお弁当箱の中に、黒板消しが落ちて来たの。左隣の小麦は大慌てで、右隣の涼は上の教室に向かって私の代わりに大声で怒ってくれている。美樹はミニタオルを取り出してチョークの粉を被った私の制服を叩いてくれていた。  この日の午後の授業は、すっごくお腹がすいて全然集中できなかったっけ。  2階の教室から黒板消しを落とした二人組が走って降りてきて、何度も繰り返し自分たちの非礼を詫びて去っていった。  ……一瞬、校舎内へと去っていく二人が、含み笑いをしながらこっちを振り返った気がした。  こっち? えっ? 美樹?  黒板消しを落とした二人組の視線の先には、何事もなかったように、平然と空(くう)を見つめる美樹の顔があった。  えっ、美樹が仕組んだことだったの?  **************
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