禍族写真

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*****  一力翁が夫婦で管理人をしている『コーポ月光』の入居者は、以前は学生が殆どだったが、建物が老朽化し、周りには新しいマンションがどんどん建っていくので、現在は、一部賃料の安いのを求めて入居してくる苦学生が数人と、あとは訳ありの単身者か外国人労働者だ。  その中の一人に、諏訪(すわ)という人物がいる。  痩せ身で奥目の暗い男で、現在はフリーターだという。  平日も週末も、昼間家にいることの方が多いようだし、夜は夜で、遅い時間まで部屋に灯りが着いている。  初めは翁も仕事をしていないのかと訝しんだが、それでいて毎月の家賃は遅れることなくきっちりと支払われる。  管理人としては、家賃さえ払ってくれれば、住人のプライベートの詮索など余計な事に違いないので、それ以上は気に病む事もなかった。  翁のアパートでは家賃は振込や引き落としではなく、又、大家に届けるのでもない。  一〇二号室に住む管理人の一力翁に、月末が来ると直接手渡す決まりになっている。  一介の管理人に家賃の全てを任せる事は、一般常識からは掛け離れているように思うが、大家がそれだけ一力夫妻に信頼を置いている証拠なのだろう。  住人によっては、決まった期日にきっちりと支払えない、又は支払わない者もいないではない。  だが不思議な事に、結果的に翌月にはきっちりと決まった額が一力翁の元に集まる事になる。  それは、翁の持って生まれた誠実さや、人当たりの良さにも勿論起因しているのだが、又同時に、翁の持つ本人が預かり知らない力に依るとも言えるかもしれない。
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