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大学時代の友人に茨木という男がいる。
茨木は変わった男で、一言で言えば協調性が皆無。友人と言える人間も殆どいない。
本人でない私が言うのも何だが、恐らくは彼にとっての大学時代の友人と呼べるのは、私くらいのものではないだろうか。
大学を卒業し、お互い一応に就職もして、会って話をする機会もめっきり減った。
そんな中、年に二度ほど予定を合わせて食事に行く。
先日も、そろそろ年の瀬が迫り、社会人になり懐事情も良いことだから、一つジビエの専門店で猪鍋でもどうかと言う話になったのだ。
私はビールを、茨木は下戸であるからとウーロン茶を注文し酌み交わし乍ら、猪鍋に舌鼓を打つ。
─ そういえば
と茨木が口を開く。
日々の労働にほとほと疲れ切っていた彼は、仕事を仮病で休み、心の癒しを求めて学生時代に慣れ親しんだ、大学前の商店街をフラッと訪れたそうだ。
「一力さんに会ったよ」
茨木は学生時代に、ひょんな事から、大学近くの古いアパートで、住み込みの管理人をやっている一力と言う老人と仲良くなっていた。
─ それで、
面白い事があってね ─
と言う。
彼が「面白い」と言うこの手の話は、大抵『変わった話』だ。
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