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第4章 待ちぼうけ
やがて夏が終わり、秋が過ぎていった。
鮮やかに彩られた山の樹々の葉が落ちると、もう冬だ。
こまちは指折り数えながら、毎日空を見上げていた。
「早く雪、降らないかなあ……」
ある朝、洞穴から顔を出したこまちは、思わず歓声を上げた。
あたり一面、輝くばかりの銀世界が広がっている。
喜んだこまちは洞穴を飛び出すと、約束の場所に向かった。あの川原から少し上がった平原に生えた、大きなクスノキの下だ。
だが幾日経っても、男は姿を現さなかった。
来る日も来る日も、こまちはかまくらを作っては待ち続けた。何しろ雪女だ、かまくらの一つ二つ作るぐらい、訳はない。
見つける時の目印にと、男からもらったバンダナを木の枝にくくりつけもした。
だが結局、冬が終わる頃になっても、こまちを訊ねてくる者は誰もいなかった。
「何よ、嘘つき……冬になったらまた来てくれるって言ったのに……」
こまちの頬についた氷の粒が陽射しに当たるや、するりと溶けて流れ落ちた。
春が来たのだ。
「――嘘つき」
小さな声で呟くと、こまちは一人で住処の洞穴へ戻っていった。
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