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第6章 冬になったら
翌朝こまちは、朝の光の気配で目を覚ました。
いつのまにかうとうとしていたようだ。
「へへ、寝られないとか思ってたのにな……」
こまちはふらりと洞穴の外へ出た。今朝は少し空気が涼しい。もう夏も終わりなのかもしれない。
ふらふらと歩くうちに、自然と足が昨夜の川原へ向いていた。
当然、もう焚火の灯りはない。それどころかテントの跡も消えていた。どうやら早い時刻に立ったようだ。
「なんだ、もう行っちゃったんだ……」
シートを引いてあったせいか、焚火の跡すら見当たらない。だが川原の砂地には明らかに人のいた気配が残っていた。
「あれ?」
帰ろうと足を戻しかけたこまちは、ふと振り返った。視界の端に何かが映った気がしたのだ。
近寄ってみると、少し離れたところに川原の石がいくつか組まれていた。その中に何か白いものが見える。
「あっ……!」
しゃがんで中を覗き込んだこまちは、思わず声を上げた。
それは見覚えのあるボトルだった。白地に青い水玉模様の、プラスチックのボトルだ。まだ封も切っていないそのボトルに、細く折りたたんだバンダナが巻いてある。去年の夏にもらったバンダナと色違いのものだ。
よく見ると、石組みの横の砂地に何かが書いてあった。
『ごめんな』
地面に書かれた文字を見たこまちは、思わず笑った。
「――馬鹿みたい。読めるわけないじゃん、雪女に。何て書いてあるのか、判るわけないじゃん。あたしが見つけなかったら、ゴミ捨てっぱなしになっちゃうじゃん。馬鹿みたい、あの人。ばかみたい……」
ひんやりしたボトルを握りしめると、こまちの目から涙のしずくが零れ落ちた。夏の暑さの中では涙も凍らない。
こまちはボトルから外したバンダナで目を拭うと、そっとフィルムを切った。見よう見まねで輪に指を引っかけて封を開ける。こっくりした甘い匂いが、こまちの鼻腔に懐かしく香った。
両手に持ったボトルを慎重に傾けて、ほんの少し舌先で舐めてみる。
「うわ、あっまい……!」
記憶よりもずっと強い味に、思わずけほけほと咳き込んだこまちは、潤んだ目のまま顔をくしゃりと綻ばせた。
――そう言えばあの時は氷にかけてくれたんだっけ……。
だが夏のこの時季に雪も氷もない。
こまちはくすりと笑うと、ボトルを手に立ち上がった。もう片方の手にはバンダナがしっかり握られている。
「冬になったら、もっと美味しくなるかな。その頃にまた……また会えたらいいな」
こまちは一度だけ青い空を仰ぐと、高く昇り始めた日の光から身を隠すように、鬱蒼と茂る木立の中へと消えていった。
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