30人が本棚に入れています
本棚に追加
アメリだって、その時はきっと怖かっただろう。けれど彼女はケラケラ笑い、「うらめしや〜! って言って出てやればよかった」なんておどけている。
「お父さんがいるときでよかったね」
「ほんとそれ。単身赴任、早く終わればいいのに〜」
「実際に通報したのかな?」
「さ〜、どうだろ」
「アメリ一人の時にそういうのあったら怖いじゃん」
「まぁね〜」
私が一緒にいられたらいいのに。暗く寂しい家に一人でいるアメリを想像して、無力な自分が悲しくなった。
「アメリ、夜はうちに泊まりに来れば?」
無理を承知で言ってみる。するとアメリは嬉しそうに目を細めて、かわいい八重歯を見せた。
「次のお泊まりは夏休みねって、こないだ遥香のママに言われたばっかじゃん!」
お泊まり会は年に3回、長期休みのお楽しみ。それは親友になった小5からずっと、お互いの家族ぐるみの約束だ。
「夏休みかぁ」
遠いなぁと思いながら、坂の上に目を向ける。小学生たちはもう見えなくなっていて、にぎやかな声と騒音だけがわずかに聞こえていた。たぶんもう霧島邸を過ぎ、先の交差点を曲がったのだろう。
「小学生って、元気だよね〜」
さくら坂を上ると、ゆっくり歩いていても息がきれる。腿と脛が鈍い痛みに悲鳴をあげている。アメリの家が坂の上でさえなかったら、と、何万回思ったことか。
そんな私の隣でにやにや笑いながら、アメリはプリーツスカートを翻してくるくる回った。
最初のコメントを投稿しよう!