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「まぁ、しょうがないよ。人って、見たいものしか見えてないものだから」
「やだ〜、遥香ってばなんか哲学じゃん?」
「べつに難しい話じゃなくて。例えばさ、ホーム画面でアプリがなかなか見つからないことってない? 半年前とかにアイコンのデザイン変わって、それから何回もタップして使ってたのに、その時は脳がなんか、前のやつをイメージしてて」
「やばい、超わかる」
「でしょ。ちゃんといつもの場所にアイコンあるのに、なぜか見えないの」
「それな〜」
口角を上げたアメリは、大きな黒目を斜め上に動かした。
「そいえばあたしもさ、ちょっと前にダンススクールの待合で、いきなり壁から人が出てきてギャッてなったわ〜。もちろんその人は壁を通り抜けたわけじゃなくて、そこはドアだったんだよね〜、でも知らなかったの。開いてるの見たことなかったから、ドア普通に見えてるのにそこにドアがあるって認識してなかったっていうか」
「そうそれ、そういうこと」
「なるほどね〜」
何度もうなずくアメリを見て、こういう素直なところに両親の惜しみない愛情が反映されているなと感じる。誘われて一度だけ体験に行ったダンススクールでも、彼女はずいぶん人気者だった。その様子に私が密かに胸を痛めたことに、アメリは気づかなかっただろうけど。
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