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「僕はまだ前橋工場から戻れそうになくてね。妻も退院の目処はつかないから、遥香ちゃんが家に風通しに来てくれて、本当に助かってるよ」
「いえ」
「でも、前にも言ったけど、暗くなったら来ちゃだめだよ。ときどき不法侵入や不法投棄の輩が来ることがあって、鉢合わせたら危ないから」
「はい、わかってます」
「遥香ちゃんに何かあったら、あの世でアメリに合わせる顔がないからね」
伏目がちに苦笑したおじさんに、私はただ、うなずいた。
私、さっきまでアメリと一緒でしたよ。並んで坂を上ってきて、家の前で別れたんです。アメリ、元気でしたよ。
そう言ったら、どんな反応をされるだろう。私もアメリの母親と同じ病院に入院させられるのかな。そんなことを考えながら、彼女がかつて丹精していた花壇を見やる。荒れ果てた庭は、一人娘を失った母親の心情を表現した芸術作品みたいだ。
「あれから……今日で7年か」
アメリの部屋を見上げて、おじさんが長いため息をついた。もう、なのか、まだ、なのか。彼にとってこの7年という月日は、どっちだっただろう。
7年前の4月1日。アメリはさくら坂を下りきったところにある交差点で、車に跳ねられた。中学3年生になった日、部活帰りに制服のまま自転車に乗り、彼女が向かったのは──私の家だ。
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