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 アスファルトの長い上り坂は、舞い散った白い花びらでまだら模様になっていた。満開になる前の桜花を散らしたのは、夜中に吹き荒れた雷雨だ。 「桜ってさぁ、散ると汚いよねぇ」  夕方までに踏み潰された無数の花びらを見下ろして、アメリが苦笑する。踏まずに歩くのは不可能だ。私は儚い美しさを圧死させる自分のローファーを見ないよう顔を上げた。 「ゆーて、全部そうじゃない? 爪も髪の毛も」 「確かに〜。髪の毛ってさ、抜け落ちたら消滅するシステムであるべきだよねぇ」 「ホモサピの進化に期待」 「あは、あたしらが生きてるうちは無理かぁ」  眉毛をハの字にして笑うアメリの茶髪は、夕日に透けて一段と明るく見える。3日前に塗ったお揃いのオーロラパールネイルもきれいなままだ。  アメリなら。アメリのなら。抜けた髪も切った爪も、私は汚いとは思わないのにな。密かにそんなことを考えながら、彼女の胸元で揺れる制服のリボンを眺める。中学に入ってからの2年間、アメリの鼓動がずっと伝わっていたはずの、紺と赤のストライプ。 「じゃあ、幽霊屋敷まで競争な!」 「ヨーイ、ドン!」  背後またからそんな声がして、真横を風が吹き抜けた。黒っぽいランドセルを背負った数人のグループが、竜巻のようにさくら坂を駆け上がっていく。
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