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第1話
最近、始めたペット育成アプリ──『すくすくモンスター』。
このアプリは、モンスターの卵を孵化させて餌をやったりコミュニケーションを取ったりして育成する、ほのぼのとしたシミュレーション形式のゲームだ。
とても癒やされるのだが、成長するにつれてモンスターの食欲が旺盛になっていき、餌をやらないとすぐにレベルが下がってしまう。
だから、私は毎日欠かさず餌をやっていた。でも、昨日は忙しかったせいで、うっかり餌をやるのを忘れてしまったのだ。
「あちゃー……」
アプリを開くと、案の定モンスターのレベルが下がっていた。
画面の中のモンスターは、不機嫌そうに餌を催促している。
「はいはい、今あげるからね」
私はアプリの画面を操作して、『ドラゴンの肉』を与えた。
するとモンスターは、美味しそうに肉を頬張り始めた。
「よしよし、いっぱい食べて大きくなるんだよー」
私が頭を撫でると、モンスターは嬉しそうに目を細めた。その仕草が可愛くて、思わず笑みがこぼれる。
ある日のこと。休み時間にアプリで遊んでいると、友人である夏実が興味津々と言った様子で覗き込んできた。
「あれ? 美由。それって、もしかして『すくすくモンスター』?」
「うん、最近始めたんだ」
「そうなんだ。私もやってるよ。ほら、これ私が育ててるモンスター。『ココ』っていうんだ」
夏実はそう言うと、自分が育てているモンスターを見せてくれた。
「え? 夏実もこのゲームやってたんだ?」
「そうだよ。まさか、美由もやってるとは思わなかったよ」
「あはは、私も」
「美由のモンスターは今、どれくらいのレベルなの?」
「えっとね、今は……」
私はそう言いながら、夏実にスマホの画面を見せる。すると、彼女は目を丸くした。
「え? 美由のモンスター、もうレベル50になってるじゃん! すごっ!」
「結構、頑張ったからね。でも、この前うっかり一日放置しちゃってレベルが下がっちゃったんだ。元のレベルに戻そうとしてたくさん餌を食べさせたから、ちょっと太っちゃった」
実はこのモンスター、たくさん餌をあげると太るのだ。その辺りは現実と同じなので、餌のあげすぎには注意が必要だ。
「ふふ、でも可愛いよね」
夏実は微笑ましそうに画面を覗き込んでいる。ふと、彼女は何かに気がついたように口を開いた。
「今、気づいたんだけどさ。美由のモンスター、ちょっと比奈に似てない?」
「え?」
「ほら、目とかさ……」
夏実にそう言われ、改めて画面を見る。
くりっとした大きな目に、愛嬌のある笑顔。言われてみれば、確かに比奈に似ている。
「本当だ……よく見たら、比奈に似てる」
「でしょ?」
比奈は、私の親友だった子だ。過去形なのは、中学を卒業するのと同時に喧嘩別れをしてしまったから。
夏美も含め、私たち三人は仲が良かった。一緒に馬鹿をやったり、くだらないことで笑い合ったり。
あれからもう一年経つけど、私は未だに彼女のことは許せない。何故なら、当時付き合っていた彼氏──晋也を奪われたからだ。
互いに別々の高校に進学したのは、唯一の救いかもしれない。
「比奈かぁ……今頃、どうしてるんだろ」
「美由と比奈、派手に喧嘩してたもんね。やっぱり、仲直りしようとは思わないの?」
「まさか。あそこまで酷いことをされたら、仲直りしようだなんて思わないよ」
「それもそうかぁ……まあ、私も比奈の身勝手ぶりは許せなかったし、だからこそ美由の味方についたんだけどね」
そう言いながら、夏実は苦笑する。
彼女が味方に付いてくれたことで、どれだけ心が救われただろう。もし自分一人だったら、今頃もっと塞ぎ込んでいたかもしれない。
「湿っぽい話は終わりにして、モンスター育成しよ。ほら、美由のモンスター、お腹空かせてるみたいだよ?」
「あ、本当だ!」
夏実から指摘を受けた私は、慌てて餌を与える。
すると、モンスターはお腹がいっぱいになったのか満足そうにあくびをした。
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