第1章  優しい嘘

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 春の空は淡い水色。   きみがいる遠い空も同じ色をしてるかな?  視界がぼんやりとにじむ。私は両手で頬を叩いた。  今日は、離れててもお互い入学式なんだから。  ……痛い。  強く叩きすぎちゃった。  姿見の鏡をのぞき込み、ほんの少し赤らんだ頬をさする。  ついでにリボンを整えていると、机の上にあるスマートフォンから通知音が聞こえた。  慌てて手に取り画面を開く。 『高校入学おめでとう』というメッセージに続き、お祝いのスタンプが連続で送られてきた。  思わず笑ってしまうくらいたくさん。  東京で一人暮らしをしている兄からだった。  11歳も年上だけど、あまり年の差を感じないのはこういう子どもっぽいところがあるからだと思う。  お返しに『ありがとう』のスタンプを連打した。  本当にありがとう……だな。  兄のおかげで少し肩の力が抜けた。 『ピンポーン』  スマホを置いて身だしなみの続きをしようとしたとき、インターホンの音が響いてきた。 「深花(みはな)、ちょっと手が放せないから出てくれるー?」  続けて階下からママの声が聞こえてくる。 「はーい」と大きめの声で返事をし、階段を下りてリビングのインターホンの画面をのぞき込んだけど。  そこに人の姿はなかった。
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