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「誰もいないよ?」
「玄関前にいるんじゃない? 一応出てみてくれる?」
ママは卓上鏡とにらめっこしていてこちらを見向きもしない。
正体不明の人が玄関前にいるってことだけど、大丈夫かな?
ちょっと怖いんだけど……
「パパは?」
「お手洗いに行ったばっかり」
残念な知らせに浅いため息を吐き、私は念のためドアロックをしたまま扉を開けてみた。
「どちらさまですか?」
その狭い空間に人影はなく、虚空に話しかける羽目になってしまった。
せっかちな人か……ピンポンダッシュだったのかな?
朝からそんなイタズラをする余裕があるのか疑問ではあったけど。
私は不審な人がいなかったことに安堵し、ドアを閉めようと手を引いた。
「ハナ」
その瞬間、そよ風のような声がした。
「……えっ?」
心臓がドキンと跳ねる。
この声と、名前の呼び方。
そんなの……ひとりしかいない。
でも、そんなことあるわけない。
聞き間違いだったのかもしれない。
「ハナ。開けてよ」
でも、わずかに開いたドアの隙間から困ったような顔が現れた。
思わずドアノブから手を離して後ずさる。
「――陽くん?」
私は激しく混乱した。
なぜなら、彼は本来ここにいるはずのない人だったから。
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