3人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女がその少年に出会ったのは、まだ桜の蕾のかたい頃だった。
冬のはじめに伴侶を亡くし、ただかなしみに暮れるばかりの頃だった。
彼女の身体は黄緑色の羽に被われている。
目のまわりは白。
小柄で、鈴の鳴るようなかわいらしいさえずりを聴かせる彼女は、小鳥だ。
誰もが彼女をメジロと呼んでいる。
椿の花の蜜を吸いあきた彼女が、咲くのを待つ桜の枝に舞い降りた、そのとき。
「痛っ!」
少年の悲鳴とともに、足にぐにゃりとした感触があった。
ぎょっとした彼女は、隣の枝に飛び移る。
「痛いなぁ、もう。オレがここにいるっていうのに」
声のしたほうをよくよく見ても、そこにはうす茶色の木の枝があるだけだった。
「だれかいるの? それとも、木がしゃべっているの?」
彼女が恐る恐る訊くと。
「ここにいるよぉ」
またしても木の枝から声が聞こえた。
彼女は注意深く、声のしたほうを見る。
そこには木の枝そっくりの、灰褐色にカムフラージュした、一匹の小さな生き物がいた。
「カエルさん! あなたどうしてここに? まだ寒いでしょうに。もう冬眠から目覚めたっていうの?」
びっくりして訊いてみると、カエルはおずおずとこたえた。
「二、三日前、すごくあったかい日があったでしょ? それで目が醒めちゃって。でてきたら、こんどは大寒波で……」
オスで、まだ若いようだ。
「だったら早く、土の中でお眠りなさいよ」
「それが……」
なにやら少年のカエルが、もじもじしている。
「なにかあったの?」
「あったかい日に、この木の上で陽なたぼっこをしていたら、カラスが襲ってきてさ」
「カラスが!」
最初のコメントを投稿しよう!