3人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
「あら? あなたの身体、色が変わってきているみたい」
桜色と灰褐色が混ざったような色が、緑がかってきた。
ふたりは舞い散る桜の花びらを浴びながら、ただじっと、変化を待っていた。
しばらくすると、少年の身体は彼女のような、黄緑色に染まった。
それは少年のもとをすぐに去った、あの少女に近しい色だった。
「きれいよ、カエルさん! ああでも、どんな色を纏っても、どうかその心の純粋さを忘れないでいてね」
「忘れないよ、きみのことも。今までありがとう!」
少年が仲間のカエルをさがすため、ついに旅立つときがやってきた。
彼女は見送りに、少年とともに枝を降りた。
満開の桜のその下で、ふたりは別れを惜しむ。
彼女は「さよなら」、ひときわ大きくさえずった。
「さよなら!」
少年も大きく鳴いた。
またね、ではなくて、さよなら……。
少年は遠くなっていく。
地面を歩く彼を見つめていても、その身体が土の色に変化する様子はなかった。
「でもね、カエルさん。あなたは何色でも美しいのよ。真剣に自分をさがしながら、私を全力で守ってくれた、あなたは……」
桜の花が咲くたびに彼女は、あの少年のことを思いだす。
桜の蜜を吸いながら、なぜかどうしようもない、せつなさに包まれて――。
了
最初のコメントを投稿しよう!