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「ああもうダメだって思ったら、おまえみたいなうす汚いヤツ、食べる気もうせるって、ばかにして飛んでいったんだ」
「たしかに、木の枝みたいな色よね……だけど、カラスに食べられなくて、よかったじゃないの」
「それはそうなんだけど……土の中にもどったら、もっともっと、うす汚い色のカエルになりそうで、怖くてもどれないんだよ。いったいオレ、いつからこんな色なんだろう……」
今にも泣きだしそうな少年のことが、彼女はいたたまれなくなった。
この少年のそばにいてあげたいと思った。
自分が友だちになってあげたら、すこしは自信がつくかもしれない、この少年も、私も――そんなことを考えた。
「……そうだわ。あなた、私の用心棒になってはくれないかしら? 最近、カラスが私をねらっているの。あなたが追い払ってくれたら、助かるんだけど」
そうして黄緑色の彼女と、灰褐色に染まった少年は、一緒に過ごすことになった。
公園の片隅の、はだかんぼうの桜の木である。
寒い西風の吹く日には、彼女がその羽で少年をあたためた。
少年が仲間のいない寂しさから泣きだした日には、彼女が歌をうたってなぐさめた。
やがて陽ざしはあたたかく、風はおだやかになった。
ロウバイ、マンサク、ミモザ……早春の公園を、黄色い花たちが飾りだした。
スイセン、アネモネ、チューリップ……色とりどりの花たちも咲きはじめた。
桜も例外ではなかった。
淡いピンク色に咲き満ちている。
ふたりは桜の木で、お花見をした。
桜の花にやってきた虫を、少年はその舌を伸ばして食べるたび、うまいうまいとケロケロ鳴いた。
灰褐色をした少年が、桜を仰ぎ見て目を潤ませる。
「なんてきれいなんだろう。この花を、この世の春を見ることができて、オレはほんとうにうれしい。なんて幸せなんだろう」
それを聞いた彼女は、少年の純粋な心を知った。
自分には「おいしそう」、ただそれだけに見える桜の花を、美しいと思う気持ちがあることを、うらやましく思った。
そのうちに彼女は気づいた。
少年の身体が桜の花びらのように、うすいピンクに色づいていることに。
「あなたの身体、きれいな色をしているわ」
「ええっ? ……ほんとうだ、色が変わってる! どうしてだろう……」
「とってもステキよ。今までよりも、ずうっと」
「けど、ほんとうのオレはいったい、何色なんだろう。見たものの色になっちゃうなんてさ。オレ、なんなんだろう……オレって、自分がないのかな……?」
少年は泣きだした。ゲロゲロゲロゲロ、泣きだした。
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