トゥルーカラーズ

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 彼女がその少年に出会ったのは、まだ桜の蕾のかたい頃だった。  冬のはじめに伴侶を亡くし、ただかなしみに暮れるばかりの頃だった。  彼女の身体は黄緑色の羽に被われている。  目のまわりは白。  小柄で、鈴の鳴るようなかわいらしいさえずりを聴かせる彼女は、小鳥だ。   誰もが彼女をメジロと呼んでいる。  椿の花の蜜を吸いあきた彼女が、咲くのを待つ桜の枝に舞い降りた、そのとき。 「痛っ!」  少年の悲鳴とともに、足にぐにゃりとした感触があった。  ぎょっとした彼女は、隣の枝に飛び移る。 「痛いなぁ、もう。オレがここにいるっていうのに」  声のしたほうをよくよく見ても、そこにはうす茶色の木の枝があるだけだった。 「だれかいるの? それとも、木がしゃべっているの?」  彼女が恐る恐る訊くと。 「ここにいるよぉ」  またしても木の枝から声が聞こえた。  彼女は注意深く、声のしたほうを見る。  そこには木の枝そっくりの、灰褐色にカムフラージュした、一匹の小さな生き物がいた。 「カエルさん! あなたどうしてここに? まだ寒いでしょうに。もう冬眠から目覚めたっていうの?」  びっくりして訊いてみると、カエルはおずおずとこたえた。 「二、三日前、すごくあったかい日があったでしょ? それで目が醒めちゃって。でてきたら、こんどは大寒波で……」  オスで、まだ若いようだ。 「だったら早く、土の中でお眠りなさいよ」 「それが……」  なにやら少年のカエルが、もじもじしている。 「なにかあったの?」 「あったかい日に、この木の上で陽なたぼっこをしていたら、カラスが襲ってきてさ」 「カラスが!」
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