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「手、はなせ」
「でも」
ありったけの憎悪を込めて睨みつける。アズマは少しひるんだような顔をしたあと、ようやく手を離した。そのまま力の限り突き飛ばす。
ふいを突かれたアズマは低い悲鳴をあげて後ろに倒れこんだ。俺は馬乗りになり、スネでアズマの両腕を押さえつける。形勢逆転。思わず口元が緩んだ。
「痛った……」
「ざまあ」
こちらを見上げるアズマ。まぶたがピクピクと震えていた。
「キレちゃった?」
「腕痛いので、どいてもらえます?」
「なあお前、明日も来たいっつったな。いいよ。来ても」
「……」
「その代わり、百万もってこいよ」
アズマは表情を変えず、黙ったままだった。
「昨日のことだけど、あれ、世間にバレちゃまずいんだろ」
「脅迫ですか」
「ちげえよ。口止め料」
「百万払えば、黙っててくれると?」
俺は笑いながらアズマの首に手をかける。かたい喉ぼとけが手の下でゆっくり動くのを感じた。
「まあな。あ、でも言っとくけどサブスク制だから。来月も黙ってて欲しけりゃまた金持ってこいよ」
手のひらを這わせゴリゴリと喉ぼとけを転がす。アズマがむせるように咳きこんだ。相手を支配しているという感触。心の奥が暗い悦びで満ちていく。
「とんでもない条件だな」
「だな。でもどうせ警察に言えねえだろ」
「どうかな。そもそもあなたが何を言おうと、その話を鵜呑みにする人なんていませんよ」
「証拠がねえとか言いてえの?残念だけどあのラブホ、全室監視カメラ付きだから。あんたらが仲良く受付済ませたフロントにもね」
全室は嘘。フロントにあるのは本当だけど。
が、アズマは信じたようだ。険しい顔をして口をひらく。
「監視カメラ?まさか部屋の映像を見たんですか?」
「もちろん。すげえやらしいことしてたじゃん、親ほど歳離れたおっさん相手にさ」
これも嘘。
「やらしい、か」
アズマの目がすっと細められる。俺は気にせず軽口を叩いた。
「ああ。お楽しみ中だったのに、中断させちまって悪かったな」
「そうですね。おかげで欲求不満だ」
「ははっ、そりゃ残念」
片手をアズマの下半身に伸ばし、からかってやろうと思った俺は固まる。そこは、なぜかもう石のように硬くなっていた。俺が触れた瞬間いっそう大きく膨らみ、気のせいかじんわりと湿っている。
アズマは笑っていた。息を漏らすようにひっそりと。
「こんな体勢させられたから、ついね」
俺はゾッとして手を離す。
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