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優等生みたいな見た目して、やることやってんだ。
ラブホテルの受付にそいつが現れたとき、俺はそんなことを思った。少しだけ長めの、真っ直ぐな黒髪。ヘアワックスをつけた様子はなく、目元の上で前髪が切りそろえられている。
姿勢がよいので身長も高く見えるが、今年17歳の俺と同じくらいの体格だ。太っているわけではないが、痩せているわけでもない。ただし陽に焼けた俺と違ってそいつは生白い肌をしていた。
視線を合わせてそいつは口を開く。
「この部屋って、空いてます?」
すっと伸ばされた指の先には、ハードプレイ仕様にあつらえられた一室があった。黒目がちな瞳は揺らぐこともなく、こちらをじいっと見つめている。まだ幼さの残る面立ちに、胸騒ぎがした。
どうする。年齢確認をした方がいいだろうか。いやでも、面倒ごとはごめんだしな。
俺はチラリと視線を横に走らせる。ガキかどうが判断のつかない青年の隣には、スーツを着た明らかに40代以上のおっさんが立っていた。俺の視線に気付いたのか、おっさんは気まずそうに俯く。
おいおい挙動不審になるなよ。怪しい雰囲気なんて出されたら社員に報告しなきゃなんねえだろうが。
「空いてますよ。普通の部屋より料金は高めですけどね」
俺はこいつらが変にボロを出さないことを願った。若い方の男はおっさんに顔を向け、いいよね、と問いかける。このSM部屋はこの青年の希望らしい。てっきりおっさんの趣味かと思っていたので驚いた。
おっさんは君の好きにしていいと返す。キョロキョロとしきりに周囲を確認していて落ち着きがない。早く青年と部屋に行きたいんだろう。人目を気にしているのが丸わかりで、ダサいなと思ってしまう。
若い恋人とセックスをするのに、わざわざボロいホテルを選ぶやつはいない。こんな場末のホテルに来ている時点で、二人の関係を疑うべきなのかもしれないけれど。
俺はさっさと受付の登録を済ませ、二人へルームキーを手渡す。
「ごゆっくりどうぞ」
青年は鍵を受け取るとほほえんだ。幸せが溢れたような笑み。おっさんはルームナンバーを確認するや、小走りでエレベータの方へと駆けていく。俺は青年の手首を軽く引っ張り小声で問いかける。
「なあ。あんたら合意なんだよな?止めなくていいんだな」
青年は軽く目を見開いたが、すぐにまた幸せそうなほほえみを浮かべた。
「大丈夫です。それより、僕たちのことを尾行けてここに来る人がいたら、適当に誤魔化してといてください」
「嫌だよそんな義理ねえし。ていうか追われてんのかよ。まさか警察じゃねえだろうな」
「違います。たぶん」
「あのさ、俺ただのアルバイトだから。面倒ごと持ち込むなら俺のシフトじゃない時にやってくれ」
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