アフターブライト

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__________  あの厄介な客に遭遇した翌朝。  俺は、父親の怒鳴り声で目を覚ました。 「おいヨシキっ!てめえどういうことだ!!!」  寝不足ですぐに目が開かない中、ドタドタと近づいてくる足音に恐怖を覚え、なんとか布団から這い出ようとした時だった。頬に強烈な衝撃を受ける。頭が吹っ飛ばされたかと思うほどの痛み。  燃えるように熱い部分に手を当て、父親の乱れた息遣いを聞きながら冷や汗が流れた。  うめきながらようやく目を開けると、くつを履いたまま土足で入って来た父親に蹴り飛ばされたのだと気づく。口の中が切れたのか血の味がした。が、一撃で済んだだけでマシかもしれない。 「おい聞いてんのかよっ!!!!クソが」  胸ぐらを掴まれ上半身が浮いた。どっかの国とのハーフなのか、父親は欧米人のようにめぐまれた体格をしていて、高校生になった今でも逆らうことができない。  くそ、馬鹿力め。遠慮なく顔やりやがって。  内心で悪態をつきながらも、相手を刺激しないよう気をつけて口を開いた。 「聞いてる、聞いてるよ。どうしたの」  今度はみぞおちに蹴りが入った。一瞬、呼吸が止まる。 「油断ならねえクソガキが!これだからてめえは信用できねえゴミなんだよ。ったくコソコソしやがって」 「待って、何に怒ってる?心当たりがないんだ」 「黙れ!!てめえ昨日どこで何してた?!!バイトなんて嘘だろうが」  話しながら父親の感情は相当ヒートアップしてきているようだった。まずい。このままだと最悪の展開になる。 「嘘なんかついてない。バイト先に電話で確認してくれたっていい。本当だよ」 「じゃあこれはなんだ?!」  そう言って父親が投げつけてきたのは、昨日洗面台の横に置いておいた二枚の名刺だった。洗濯する前にポケットから出しておいたそれをめざとく見つけた父は、なぜか知らないが今ものすごく怒っている。  ちょっと待て。洗面台でコレを見つけて今この状況ってことは、うちの父親は何でくつ履いてるんだよ。俺を蹴るためだけにわざわざ玄関まで行ったのか?だとしたらやばい。いつも以上にキレている。 「それもバイト先で渡されたんだよ。ちょっとトラブルがあって……その名刺がどうしたの?」  父は舌打ちをして俺の顔面に膝蹴りを喰らわせた。目の前が真っ白になり、布団に片腕をつく。だが支えきれず、そのままずるずると体を倒した。 「まだしらばっくれるつもりだな。もういい。てめえは今日から外出禁止だ」 「……れは、困る。今日も、バイトが」 「バイトとか言って、またこいつに会うつもりだろう!」 「会わないよ……なんでそんな。ていうかこの人、誰。父さんの知り合いなの?」 「白々しい!まだ言うか……こいつは芳美(よしみ)の再婚相手だろうが」 「えっ、母さんの?」  予想していなかった言葉。あわてて名刺に視線を落とす。 「その吉原(よしはら)(あきら)ってクソ野郎のことだよ」 「マジかよ……」  それ以上続ける言葉がなかった。あまりにも驚きすぎて、どう反応すればいいかもわからない。  再婚相手だと?ほんとうかよ。そんな偶然があるか普通?  母親といっても、俺が1歳くらいの頃に両親が離婚してから会ってはいない。もちろん母親を覚えてすらいない。その後、母親がどう暮らしているのかなんて全く知らなかった。あまつさえ、再婚していたんて。  昔の写真すら、このクソ親父が破いて捨ててしまった。あんな女と別れられて良かったなんてよくほざいていたが、原因が父親の不倫だと気づいている。  父親がずっと借金の返済に追われていて、ある日家に督促状(とくそくじょう)が届いたことがあった。こっそりと内容を盗み見ると、そこに離婚した母親への慰謝料と書かれていたからだ。
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