第1章―桜が満開のあの日に始まった―

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第1章―桜が満開のあの日に始まった―

初めて乗る朝の電車。 見慣れない、桜色の景色。 新学期、今日から通う新しい高校の入学式。 慣れない電車だし、1本早い時間に乗るって幼馴染の親友と約束したのは昨日のこと。 だったはずのに……。 言いだした側が寝坊って、有り得ます?? 「会ったら絶対文句言ってやる……」 《ごめん、あず!寝坊して間に合わなかった〜!次の電車で行く!》 乗り込んでしまってから送られてきた親友からのメッセージを見返して、ついつい独り言を呟く。 1本早いせいか、電車の中に新入生らしき人はいなかった。 恐らく部活の朝練があるんだろう。 ジャージ姿の先輩たちに囲まれて居心地が悪い電車に揺られる。 『次は、梅原、梅原です』 まだ3駅もある……。 電車のアナウンスに、憂鬱な気分が大きくなり、ため息をこぼした。 《ごめんって!すぐだから待ってて!》 そのタイミングで、再度送られてきたメッセージに私はスマホを握り直した。 私の親友は、初日からマイペース全開らしい。 両手を合わせて謝りながら、ちらりとこちらを見つめる可愛らしい瞳が鮮明に脳裏に浮かぶ。 ごめんね〜! と明るく再生される親友の声に、結局私は許してしまうのだった。 「《う、ん、待、っ、て、る》……と。」 「……」 返信を打ちこんでいると、頭上から声のない笑い声が聞こえた。 すぐ上から聞こえたそれに驚いて、スマホから目を離す。 そこにはいつの間にか、スーツ姿の細身の男の人が立っていた。 なんで急に笑んだろう? 気になって顔を上げた私。 そして男性の表情を見た瞬間、私の胸は大きく高鳴った。 切れ長の目がすべて閉じられるように細くなっていて、それでいて楽しそうで、爽やか。 うーわ、めっちゃかっこいい。 そう認識した瞬間、パチッと目が合って、私は目を見開いた。 え?もしかして笑われたの私だった? なんか、おかしかったかな……? 突然のことに、焦り出す心。 私の心を知ってか知らずか、その男の人は、今度は目が合ったまま、笑顔を見せた。 確実に私に向けられたその笑顔が、あまりにも綺麗でかっこよくて絵になって。 私は、自分の顔を隠すようにうつむいた。 な、何これやばい、絶対顔赤い。 どうしよう、目逸らしちゃった。 変に思われたよね……? 小さなパニックに襲われている私に気づいているのかいないのか。 その男性は、また少し笑いを漏らして、それからはなにも喋らなかった。 目の前で吊り革を持って立つ男性。 そして不自然にうつむく私。 春特有の、そわそわする気分に加わったこの気持ちは……私の心に、新しい蕾を残していった。
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