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「急に悪いな」
「い、いえ、全然」
教室のドアを開けて、スタスタと入って行く先生。
慣れ親しんだ数学準備室に緊張しながら足を踏み入れると、先生はガサゴソと引き出しを開けて、小さなお菓子を差し出した。
「これ、お礼」
「……へ?」
思いもよらない状況に、私は間抜けな声をあげる。
「チョコ、くれたじゃん。」
先生から差し出されていたのは、私があげたミルクチョコレートと同じ種類のイチゴ味。
おずおずと両手を添えると、先生はその手の上にチョコレートを優しく置いた。
「ありがとな。元気出た。」
そんな爽やかな笑顔に、私はドキドキが止まらなかった。
赤くなる顔をイチゴのチョコで隠す。
「なんで照れてんの?」
先生は、本当に可笑しそうに笑って、ぽん、と一度頭に触れた。
「ありがとうございます。」
「ううん、こちらこそ。」
えへへ、と笑えば先生からも返ってくる。
「生徒に見透かされるなんて、俺もまだまだだなぁ」
「気付くよ、私、先生のこと見てるもん」
思い切った言葉は、大人な先生にはどうしたって届かない。
先生は「ありがとな」といつものクシャッとした笑顔で笑っただけだった。
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