Lesson9 ~届かない想い~

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「急に悪いな」 「い、いえ、全然」 教室のドアを開けて、スタスタと入って行く先生。 慣れ親しんだ数学準備室に緊張しながら足を踏み入れると、先生はガサゴソと引き出しを開けて、小さなお菓子を差し出した。 「これ、お礼」 「……へ?」 思いもよらない状況に、私は間抜けな声をあげる。 「チョコ、くれたじゃん。」 先生から差し出されていたのは、私があげたミルクチョコレートと同じ種類のイチゴ味。 おずおずと両手を添えると、先生はその手の上にチョコレートを優しく置いた。 「ありがとな。元気出た。」 そんな爽やかな笑顔に、私はドキドキが止まらなかった。 赤くなる顔をイチゴのチョコで隠す。 「なんで照れてんの?」 先生は、本当に可笑しそうに笑って、ぽん、と一度頭に触れた。 「ありがとうございます。」 「ううん、こちらこそ。」 えへへ、と笑えば先生からも返ってくる。 「生徒に見透かされるなんて、俺もまだまだだなぁ」 「気付くよ、私、先生のこと見てるもん」 思い切った言葉は、大人な先生にはどうしたって届かない。 先生は「ありがとな」といつものクシャッとした笑顔で笑っただけだった。
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