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撮影を終えた俺は、真っ直ぐ家に帰る気にもなれず、久しぶりに相手を探しにバーに立ち寄った。
この孤独と虚無感を埋める為には人肌が必要だ。
結局、俺は恋をした所で変われない。
俺はカウンター席でひとりで酒を煽った。
記憶を無くすほど飲んで、何もかも忘れてしまえたら...
そんなことが一瞬、頭を過ぎったが、芸能人である俺にはそれをする勇気はない。
何もかも中途半端な自分に嫌気がさす。
「お兄さん、隣いいですか?」
そんな俺に声を掛けてくる男がいるなんて、世も末だなと思いながら顔を上げた。
「なに?」
「寂しそうな横顔だったから。」
「そう?」
「うん。って、もしかして...」
俺は咄嗟に彼の口を手で塞いだ。
「しー、これ以上話すなら俺の前から消えてくれる?」
「ふふっ、そういう人なんですね。」
「そうだよ。みんな俺に夢を見すぎてる。」
「男が好きなの?」
「君、単刀直入だね。」
「まどろっこしいことが嫌いなので。」
俺はグラスの酒を1口飲み込むと、言った。
「男も好き。正しくは、どっちもあり。」
「なら、俺は?」
俺は彼を見つめた。
しかし、彼は全く目を逸らさない。
何故かその事が、俺の欲望を煽った。
「名前は?」
「優馬。」
「年は?」
「21。」
「証明出来るものは?」
「警察みたい。」
「出せないなら君とはなしだ。」
俺は言い放った。
「分かった。」
優馬は財布から免許証を出し、俺に見せた。
確かに嘘は言っていない。
「俺の事、誰にも言わないと誓えるか?」
「はい。言いません。」
「出よう。」
今夜の相手は決まった。
やっと眠れぬ夜が終わる。
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