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「でも……ミーナさんが料理下手なら本人が自覚してるんじゃない?」
「それも甘い。スライム料理を作る美少女は過去に何度も同じ失敗を繰り返したはずなのに、主人公に指摘されるまでなぜか悪意も自覚もない。本人が究極味音痴で『おいしいと信じている』が王道パターンね」
「ならミーナさんに直接聞けば?」
「それも無駄と思うけど……ねえ、ミーナさん。あなたの料理って、周りの人はおいしいって食べてくれるのかしら?」
ミーナ村長は、ニコニコしている。
「答えないね」
「やっぱり。ヒロイン難聴発動よ」
「これが噂の、難聴の罠……!」
全員が、ごくりと唾を呑み込む。
「ミーナさんにはゲームデザイナー、否、天の理で難聴魔法がかかっている。もう何も聞こえないし、私たちに反応もしない」
「逃げるか」とウォルフ。
「それも無駄。アニメ主要視聴者であるオタク男子にとって美少女の手作り料理はリアルでも最高の憧れイベントなの。食べずに逃げる選択肢は決して与えられない」
周囲を見渡す。四方は白い壁、唯一の扉の前に立つミーナさん。笑顔なのに絶対にどかない岸壁の母オーラを漂わせている。
「部屋はもう、どんな解錠魔法も効かない異空間結界。入室する前に罠に気づくべきだったんだ……」
迂闊だった。ひどい空腹で選択肢を誤った。
その先がサブチャン&マツケンだろうとジャイアンリサイタルだろうと、対抗がミーナの手料理という一点で選ぶ一手だったんだ。
全員が蒼白になる。
「どうすりゃいいんだ」
「私が知る限り……この状況の解除方法は一つしかない」
「あるのか?」
「ええ、たった一つだけ。魔法の言葉がある」
三人の顔に、ぽっと生色が甦る。
私は空腹マックスの腹をくくった。
「みんな。聖女レイナの日本の知恵と力を信じて、私の後に続いて一斉に呪文を唱えてください」
「わかった!」
私は見た目麗しい料理に向きあうと、両手を合わせて目を閉じる。
全員がそれにならったことを確かめると、私は厳かな表情で宣言した。
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