週末異世界Ⅳ ～聖女様と空腹のダンジョン

「ねー玲奈―！　金曜日の夜、なんで牛パクの前で急にいなくなっちゃったの？　学割、日曜日で終わっちゃったのにー。焼肉マジおいしかったよー。それと聖女魔界大戦の新作Ⅳだけどね、なんと驚きの……」
「どーせ主題歌はサブちゃん＆マツケンで、ナレーションは立木様でしょ」
「あれ、知ってたの？　きょう朝の新着公開情報なのに」

　空腹を抱えた月曜日、いつもの大学ゲーム同好会室、いつもの晴海と二人。日本に戻れた感動は、これっぽっちもない。

「あんな大物連れてくるなんてゲームデザイナー南谷魔子の影響力、まだまだ捨てたもんじゃないねー。ひょっとして玲奈も聖女大戦ハマっちゃった？　くだらないんだけど、なんか沼っちゃうクソゲーってあるよねー」

　あたしゃこの異世界にもうズブズブだよ。尊敬するTARAKOさんの声真似でそうつぶやくくらいしか、抵抗できない自分が情けない。

「そうだ玲奈。あすの夜に街のホテルで豪華ディナー食べ放題があるの。スポンサーがついて特別価格千円だって。行く？」
「何その神情報！　行く行くっ！」

　あすは火曜日。絶対に異世界に飛ばされる心配がない！

「じゃあ決まり！　ええと、スポンサーは某音楽レーベルで、サブちゃん＆マツケンの『祭りだサンバディナーショー』三時間ステージ鑑賞がノルマね。あ、いま応募したら舞台最前列ペア特等席当選したよ！　ラッキー、生演奏で一緒に踊れる特典付き席みたい！」
「……絶対、行かない」
「えー! なんでー？」

　頼むから異世界から日本への文化逆侵略だけはやめてくれ。私はそうつぶやきながら、空腹に耐える体に毛布をかぶった。

（了）