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ミーナは独りでしゃべり続ける。この世にゲームのチュートリアル説明くらい退屈な時間はない。おまけにこの時間、説明者以外の全キャラが難聴になるのも異世界ルールだ。空腹に耐える私の親指は、ひたすらAボタン連打の動きを続けていた。
「……と、そこにグールやアンデッドの大群が押し寄せたのです!」
「あのう……吟遊詩人はどうなりました?」
「え? その直前に流れ旅に出て、それっきりですけど」
話の大半に費やされた吟遊詩人は、グールと関係ないらしい。ゲームの異世界感を盛り上げるためだけに投入されたキャラか、重要人物の予定だったが開発期間と予算の両方が逼迫し途中放棄されたキャラか、のどっちかだろう。この時点でシナリオは破綻、早くもクソゲー異世界確定である。
「奴らは村の食料という食料を、ほぼ奪ってダンジョンに戻りました」
「つまり今、村にまともな食料はない、と?」
「そのとーりです」
一気に冷めた。さっさと隣村の宿屋に行こう。
ダンジョン攻略? 明日でいいや。
「グールたちは飢えで死んだ者の怨霊です。奴らは氷の洞窟に呪いをかけ、難攻不落のダンジョンにしました」
「ふーん。そりゃ難儀ですねえ」ぽりぽり
「何より許せないのは、冬のかまくら祭りで儲けた大金で買った『王都の高級おにく』百人分が奪われたことです! 凶作に備えた村の備蓄になるし、賞味期限が近付いたら村長の私が全部食べればいいわけですし」
「いやその発想はどうかと……って、王都の高級お・に・く?」
私の瞳に、一瞬で生気が甦る。
「ミーナさん、聖女に詳しくお聞かせください」
「吟遊詩人の話ですか?」
「そっちはどーでもいいよ。おにく、どうなりました?」
「彼らは飢えの怨念で食料を奪いますが、死んでいるので食べられません。ダンジョンに貯めこむだけ、さらに飢えを募らせます」
「氷のダンジョン……つまり全量、冷凍保存で無事ってことですね」
じゅるるるる。たらーり。
「あ、聖女様。お口からよだれが」
「失礼しました。村長が善意で買った高級食料、奪われた村人の悲しみを想像したら、思わず口から涙があふれました」ううっ
「なんと清らかな御心でしょう!」
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