プロローグ

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 結局、近戸は医吹先生に捕獲されたまま俺たちは追い出された。矢城井?という人はどこからか現れた真面目そうな生徒に「委員長!とっとと帰りますよ!ハウス!」と言われながら引きずられていった。捨てられた子犬みたいな目をしてこちらを見ていたが、関わりたくなかったので、無視した。  そして今、青海に教室まで案内してもらっている。広々とした廊下は二人分の足音しかしない。そういえば…… 「今ってもしかして授業中?」 「いや10分休憩の時間だよ、なんで?」 「随分静かな廊下だと思って…」 「ああ、ここは中央棟と教室のある棟をつなぐ通路だからね。教室までまだ遠いから何も聞こえないだけだよ」  結構歩いた気がするんだが……。だいぶ長い通路だな。途中で分かれ道になっているところもあったが、ずっと真っ直ぐに進んでいる。 「そういえば、旧校舎はEクラス専用の場所なのか?」  だいぶボロくガタがきている建物だった。治安の悪そうなところだったけど…… 「まあ、専用っていうか……また、話すよ。他にも説明しなくちゃいけないことがあるしね」 「そうか」 「………中田。誰も知らない知られたくない、そんな一面を人間誰しもが持ってるだろ?」 「え?そ、そうだな」  青海はいきなり立ち止まり背を向けたまま話し始めた。話題転換が急だし、なんか哲学っぽいことを言いだしたので少し驚いたが。 「この学園の人間はその一面が顕著に現れている。………誰しもがを持っているんだ」 「裏のカオって……さっき言ってた知られたくない一面ってこと?」 「そうだね。秘密主義者が多いわけだ。みーんな表面では仲良くしてても、本当の中身はお互いに知らない………ソレを暴くのが面白いんだけどね」  青海がこちらを振り返る。窓から差し込む太陽の光が逆光となり表情はよく見えない。けれど───── 「歓迎するよ中田。楽しい学生生活を送ろう、お互いに、ね」  そう言う青海は保健室で見た爽やかな笑みを浮かべていた。けれど、本当に一瞬だけ、感情のない「無」のようだと、思ってしまったのはきっと気のせいだ。  新たな始まりを告げるかのように窓の向こうでは桜吹雪が風に舞っていた。この学園で今までのように平穏な生活が送れるのか、そんな不安も桜吹雪とともに空に飛んでしまえばいいのに。  これから、俺の新たな学園生活が始まる────
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